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2022年6月公募第57回リバネス研究費

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法政大学 社会学部メディア社会学科 准教授

橋爪 絢子さん

採択テーマ
モバイルオーダーシステムの顧客視点からの最適化

人を中心に快適な店舗経験を実現する

人を中心に据えて考えることで、あらゆる製品やサービスの質向上や経営改善にも資するポテンシャルを秘めている人間中心設計。顧客視点で徹底的に考え続けることは、思いの外難しい。人の心理にどう向き合い、快適さを追求するのか伺った。

人の心理に向き合いより良い状態に導く

学部生まで心理学を専攻した橋爪氏。心理学を社会に役立てたいと思い、人間中心設計(以下、HCD)や感性工学に専門を移した。HCDとは、人の使いやすさや心地よさを中心に置いてモノや仕組みを設計する考え方で、より良い状態に人を導く研究分野だ。改善はもちろん、開発初期から取り入れることで、新規性と使いやすさの両立もできる。HCDは、ユーザの利用状況とニーズを理解した上で、解決策を考え、評価と改良を繰り返す、というサイクルからなる。当たり前に聞こえるが、徹底的に顧客調査と評価を行うケースは意外に少ない。一次情報に触れ人と向き合うことが重要だ。

誰でも人間中心設計を扱える手法の実現

橋爪氏が研究を始めた当時は、スマホが登場した変化の時代だった。情報社会の変化に適応しづらい世代の支援ができればと、高齢者を研究対象とした。高齢者の利用を見込んで導入された地方路線バスが経営難だと相談された際は、HCDの考え方で改善に取り組んだ。利用率低迷の原因は利便性だと考えられていたが、橋爪氏が非利用者を対象とした調査で深掘りすると、異なる原因が見えた。バス非利用者は不便が理由ではなく、どこに行けて、どんな時に使うと便利なのかがわからず使っていなかった。当然のような内容だが、提供側からは仕組みに潜む問題は気づきにくい。その後、チラシ等で利用例を伝えるべきと仮説を立てたが、いきなり実装しないのがHCDだ。チラシを試作し、どう情報伝達すべきか、当事者に検証した上で本格導入する。結果、見事に経営難は解消された。橋爪氏は心理学の知識を活かして潜在ニーズの抽出を行っているが、特に定性的な調査は属人的で、実施者によって結果に差異が出る危険性を孕む。そのため、実査に留まらず、誰が調査しても結果が変わらないための手法開発に注力している。

モバイルオーダーを起点に好循環を回す

今回の採択は、モバイルオーダー(以下、MO)の利用率向上の鍵を顧客視点で探索することがテーマだ。MOの利用促進により待ち時間と感染リスクが低減できる。MO利用者の85%が満足と回答する統計データもあり、「システム最適化で、新規利用者の心理的ハードルを下げ、利用率と満足度を向上できる」と語る。まずはシステム上の潜在課題を専門家分析と、現場観察で明らかにする。そしてシステム改善案を作り、ユーザ参加型テストで効果検証、というサイクルで最適化を図る。「特にご高齢の方は、新しいものを生活に取り入れたがらない傾向がある。分かりやすくして躓く要素を取り除くことが重要」。その効果は利用増加に留まらず、電話対応やレジ業務が減るなど、働く人の負荷軽減と心地よさにつながる。MOシステムの課題を顧客と店舗運営の両面から最適化することで、店舗全体の快適性を実現するだろう。

(文・内山啓文)

2023年 6月募集開始 第61回 𠮷野家賞 募集ページ