2022年6月公募第57回リバネス研究費
第57回リバネス研究費 吉野家賞 募集テーマはこちら
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 修士2年
加藤 宏幸さん
- 採択テーマ
- 微生物を活用した炊飯迅速化研究
微生物の力を最大化することで炊飯工程に革新をおこす
「学生のうちから研究費の獲得に挑戦する経験が次のキャリア形成につながると思い、今回の研究費に応募しました」と語る修士2年の加藤氏。今回の募集テーマである「『はたらく』を楽にするあらゆる研究」に対し、加藤氏はどんな研究ビジョンを𠮷野家と共に描こうとしているのか。
伝統的概念から着想した お米のおいしさ研究
古くからワインづくりでは、自然の要素が作物に影響を及ぼす「テロワール」という概念がある。その重要な要素に、土壌に生息する微生物の影響があるとされている。加藤氏はこの考え方に着目した。日本といえばお米である。お米もワインのブドウと同様に産地でおいしさが評価されることが多く、そうであれば土壌微生物もお米のおいしさに寄与しているのではないかという仮説を立て、研究に取り組んできた。「今振り返ると、昔から微生物と食、特においしさの関係性に興味がありました。小学生の自由研究ではイースト菌発酵でパンづくりに挑戦するなど、自ら試行錯誤したものを食べるのが好きでした」と語ってくれた。
早くご飯が炊ける微生物の探索
加藤氏の立てた仮説は的中し、ある微生物群とお米のおいしさに正の相関がみられたという。生産側の環境要因である微生物と消費者の嗜好性の関連性は、米飯の研究ではこれまで誰も着目していなかった興味深い知見だ。この研究は、お米をおいしくするための微生物資材の開発、微生物抽出物を用いた食品添加物の開発など幅広い産業利用の可能性が見込まれる。一方で、実用化に向けては、衛生面や金銭的・時間的なコストも考慮する必要がある。「大学時代に自分が家族のために料理をしないといけない状況になった経験があります。その時に、おいしさの追究のみならず調理の手軽さが大切さだと痛感しました」と語る加藤氏は、本研究費の募集テーマを見て、炊飯が迅速化できる微生物の力を活用できる可能性があるのではないかという着想に至ったという。今回の採択研究では、お米の主要成分であるデンプンの構造変化に寄与する微生物群を玄米の表層から探索を試みる予定だ。
微生物のチカラで働き方を楽にする
現在、株式会社𠮷野家では、従業員の負担軽減をテクノロジー活用で実現し、「ひと」本来の価値が発揮される時間の最大化を目指している。本テーマは、従業員による炊飯工程を大幅に削減できる可能性がある点が評価された。「中でも、お米の浸漬には冬場になると1時間かかります。この工程が短縮されるだけでも従業員の負担軽減につながります。1分間短縮されただけでも、多くの従業員、店舗を抱える我々にとって効果は大きいでしょう」と𠮷野家河村社長(写真右)は期待を寄せる。今回、加藤氏の専門性と𠮷野家側の課題感がうまく噛み合ったことが採択の決め手だったとも言える。加藤氏の自由な発想が、古くから変わらない炊飯工程に革命を起こし、食産業の常識を変えるかもしれないと思うと胸が高まるばかりである。
(文・内田早紀)