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2021年6月公募第53回リバネス研究費

第53回リバネス研究費 コージンバイオ賞 募集テーマはこちら

長崎大学 水産学部 助教

上野 幹憲さん

採択テーマ
海産魚培養細胞を充実させたい

海産魚生産の安定供給を支える細胞培養技術の確立を目指す

生物系の研究室では当たり前のように行われている細胞培養だが、実は海産魚の細胞培養系はあまり確立されていない。水産学部で細胞生化学の研究に取り組んできた上野氏は、現在海産魚培養細胞の樹立に向けて邁進している。着想のきっかけと目指すビジョンについてお話を伺った。

思わぬ誤算から生まれたテーマ

上野氏が助教に着任するにあたって取り組もうとしたのが、養殖が盛んになる中で対策の必要となる魚のウイルス病の研究だ。しかし、実際に研究を開始しようとして分かったのは、ウイルス研究に必要な魚の培養細胞系がほとんど樹立されていないという事実だ。動物細胞が40,000種ほど販売されているうち、魚類の培養細胞はたった25 種しかなかった。ポスドク時代に医学部で学んだことで、細胞やモデル系の存在が如何に研究を進める力になるかは肌身で感じていた。培養細胞がなければ、ウイルスを増殖させることができず、研究が進まない。ここから、海産魚培養細胞の樹立への挑戦は始まった。

前例が少ない中での試行錯誤

コージンバイオ社は魚培養細胞の経験はなかったが、これまでアプローチしてこなかった“食”の分野への培養技術の活用に関心をよせて今回の採択に至った。これまでに報告されている海産魚培養細胞の培地は、血清の種類や塩濃度などが思い思いに調製されており、培地検討は困難を極めることが予想された。しかし、採択に向けた面談の段階から議論は盛り上がり、すでにいくつかの培地サンプルの提供を実施、既にポジティブな結果も出始めている。コージンバイオ社に蓄積された細胞培養のノウハウを活かし、今後も海産魚培養細胞の系樹立に向けて協力していく予定だ。

未来の水産業を支える技術へ

上野氏が目指すのは、ヒト細胞と同じように海産魚培養細胞を手に入れることができる世界だ。「培養細胞のラインナップを揃えて、現場で使っていただくのが目標」だという。それにより魚病のウイルス研究が進めば、検査キットによる早期発見や適切な治療薬の開発が可能になるはずだ。また、現在畜産の世界では“培養肉 ”が近い未来実用化されそうな技術として発展してきている中で、“培養魚肉 ”に挑戦する企業も出てき始めた。そうなると魚細胞培養技術はより重要度を増してくるだろう。上野氏の研究の軸は細胞生化学にあるが、水産学部で学び、現場を知っているからこそ、常にビジョンは水産業の発展に向いている。今後の研究で、これまでの細胞培養の研究の中で培われたノウハウが生かされ、私たちの食に貢献していくはずだ。
(文・重永美由希)