2020年6月公募第49回リバネス研究費
第49回リバネス研究費 𠮷野家賞 募集テーマはこちら
筑波大学システム情報工学研究群 知能機能システム学位プログラム 博士前期課程1年
樋口 翔太さん
- 採択テーマ
- 超低コストロボットアームの開発及び飲食業自動化の社会実装モデルの構築
ロボットアームが飲食業で働く「人」の価値を最大化する
あらゆる産業でAI・ロボットによって単純作業が自動化されると言われて久しい。しかし、既存技術では高コストが導入障壁となって実現に至っていないのが現状だ。筑波大学の樋口氏は、常識を覆すアプローチでロボットアームをコスト削減し、単純作業からの解放を飲食業で実現する。現場とラボを行き来しながら挑戦する樋口氏の社会実装へのビジョンを伺った。
現場の深い理解と高専で培った技術力が武器
幼少期からロボット開発に没頭し、自立型ロボットの大会「ロボカップ」に挑戦していた樋口氏。メカ・回路・プログラムのトータル開発の中で、技術を身につけ、2017年には世界大会で優勝。高専時代にはトマト収穫ロボットの研究で、ロボットを応用した現場の課題解決に挑戦した。そんな樋口氏が、超低コストロボットアームの着想に至ったのは、飲食店のアルバイト経験からだ。「キッチン仕事の中で、食材の仕込みや皿洗いなど、単純作業にストレスを抱えていた」と話す。ロボット活用で単純作業を自動化すべきと調査し、高コストが大きな導入障壁だと仮説を構築。世の低コスト品はホビーや教育向けで非実用的、産業用は高性能だが高価だ。飲食業とロボット開発の経験がある自分ならば、このジレンマを越えられると考え、ロボットアームの研究開発に乗り出した。
業界の常識を覆すコストダウンへの挑戦
既存製品はなぜ高コストなのだろうか。一般的にロボットアームの導入先は、組立工場だ。高精度な制御と長寿命が求められ、使用部品はハイスペックとなり、飲食業では時としてオーバースペックになる。このコストと精度のジレンマにチャンスを見出し、着想に至ったのが「 適切な精度、使い捨て、安価な部品」というコンセプトだ。一見、シンプルなアイデアだが、実現は難しい。安価な部品を使いつつ要件を満たすには、部品の限界や特性を考慮した設計と、低精度をカバーするソフトとハード両方の技術が必要だ。通常のロボットハンドだと対象物の座標を正確に捉え、精密な力加減が求められるが、樋口氏が筑波大学で研究中の食品用センサ付グリッパならクリアできる。センサを装着することで、対象物の状態を認識し、位置調整や力加減を最適化可能だ。そして、有り合わせ部品での開発経験があり、飲食業での要件も熟知した樋口氏の知見が重なることで一貫した開発が可能となる。
人の創造性が最大限発揮される世界を創る
樋口氏がロボットアーム開発で目指すのは、働く人が活躍しやすい環境作りだ。「 通常のロボット開発では、複数メーカーとITベンダーが連携するため、必然的に時間とコストがかかります。一刻も早く社会実装するために、僕のチームでは開発プロセスを一貫して担い、素早く試作と実証を行うリーンな開発を行います」と語る。2020年11月つくば市での飲食オートメーション社会実装モデル構築に向けた実証実験では、約3ヶ月で試作したロボットアーム搭載のキヨスク型販売機「 Closer Cafe 」で全自動の飲料提供システムの実用性を確認。人との協働が伴わず、実装ハードルの低いキヨスク型の開発推進が飲食店への実装を早めると見込んでの戦略だ。今後は環境認識技術と、使いやすいアプリUIの掛け算でパッケージ化し、他業界への展開を仕掛ける。単純作業から解放され、人の創造性が最大限発揮される未来は近い。
(文・内山啓文)