
2025年6月公募第69回リバネス研究費
第69回 𠮷野家賞 募集テーマはこちら
同志社大学 文化情報学部 文化情報学科 4年
山下 凌久さん
- 採択テーマ
- 小型ロボットを用いた挨拶誘導による職場コミュニケーション活性化の実証実験
ロボットがそっと手渡す「挨拶のきっかけ」から、働きやすさと安心感のある職場をつくる
忙しい飲食店では作業に追われ、従業員どうしの声かけが減りがちだ。特に新人は挨拶の大切さを分かっていても、最初の一言に勇気がいる。山下氏は小型ロボットの合図で挨拶を促し、会話を生む実験に挑む。狙いは、人が一歩踏み出すための静かな後押しだ。
挨拶は「話しかけていいよ」のサイン
山下氏が挨拶に着目した原点は、高校3年生から始めたアルバイトにある。職場は大学生が中心で、高校生の自分は遠慮が先に立った。大学生側も気を遣い、互いに最初のきっかけを掴めないまま時間が過ぎた。転機は、職場の食事会で聞いた「挨拶してくれる学生って、話しかけやすいよね」という一言だ。また、自身が迎え入れる側になったとき、挨拶をしてくれる人ほど打ち解けるのが早く、仕事も回りやすいことを実感したという。
さらに別のアルバイト先であるリゾートホテルでは、外国人労働者とも多く関わった。家族を置いて日本で働く不安や孤独の中で、他の社員が密に声をかけてくれることが「働きやすさ」につながっていると聞いた。会話は業務効率だけでなく、職場の心理的安全性そのものをつくる。その安心を、より多くの現場へ広げたいという強い情熱が、山下氏を研究へと突き動かした。
小型ロボットが現場に違和感なく入り込む
そのような思いから、大学ではロボットと人間の行動や心理に与える影響を研究している研究室に所属した。ヒューマンロボットインタラクションの研究分野では、ロボットが他者との関わりを媒介し、対人コミュニケーションを支援する効果が、教育・介護・医療領域で報告され始めている。山下氏の関心は、ロボットがきっかけを作り、人が自分の意思で挨拶を行動に移す仕掛けを作ることにある。本研究では、この仕掛けを飲食店の現場に持ち込み、行動に変化を起こせるかを実証データで確かめる。実験で使用予定のロボットは、現場で邪魔になりにくい小型が前提だ。大きな人型ロボットが動き回れば、作業の妨げになり、警戒感も生まれかねない。狙うのは、「あ、またいるな」くらいの存在感で場に馴染むこと。一方で実体があることが重要で、画面越しの対話よりも、行動を促しやすいと考えている。
目指すのは人の変化のきっかけをつくること
彼が描く未来のロボットは、人と人が関わり合うための入口をつくる存在だ。「若者はコミュニケーションを取りたがらない」と言われがちだが、むしろ、誘ってほしいのに言い出せない人が多いと感じている。だからこそ、そうした場面で「言ってみたら?」と背中を押す役割を、ロボットが担えるようになればいい。人を置き換えるのではなく、人の変化を支える存在になれるはずだと考えている。
会話が増えれば、職場の雰囲気は明るくなり、意思疎通も滑らかになる。結果として従業員の離職率低下や生産性向上といった具体的な効果を、実証実験で測定し、研究としての価値を確立する。従業員の笑顔は店の空気を変え、お客さんにとっても「感じのいい店」になり、商品の提供がスムーズになるかもしれない。目線だけで通じるチームワークが育てば、「いつもより牛丼が早く届く」未来だって、実現できるかもしれない。
(文・高木 史郎)