採択者の声

2024年9月公募第66回リバネス研究費

第66回 &タウリン賞 募集テーマはこちら

慶應義塾大学 薬学部 薬物治療学講座 学部4年生

長谷川 敬章さん

採択テーマ
低分子化合物を利用した部分的リプログラミングによる若返りへのタウリンの効果

部分的リプログラミングにより高齢化に伴う諸問題の根本解決を目指す

タウリンのポテンシャルを掘り下げ、健康寿命の延伸に寄与するテーマを後押ししようと、大正製薬株式会社が公募した&タウリン賞。その採択者となったのは「部分的リプログラミングによる若返り」の研究を学部2年から始めた長谷川氏だ。科学技術の力でイノベーションを起こし、日本を変えていきたいと語る、長谷川氏の想いとビジョンを聞いた。

国を若返らせ、元気にしたい

中学校卒業までの5年間シンガポールで育った長谷川氏は、帰国した日本で全体的な元気の無さを感じた。「食べ物も美味しく治安もいい日本のことが好きで、このまま世界の表舞台から日本がいなくなってしまうのも悔しいです」。この国をもっとよくしたい。そうした想いを抱えていた同氏は、大学入学後に医療・生命科学を学ぶ中で、現在の医療が高齢化や社会保障費の増大などの課題を抱えながら、一方で多くの疾患を根本治療できていないことに疑問をもった。病のなく健康で活気あふれる日本にしたい。そう考えていた時、リプログラミングについて知り、老化という幅広い疾患の原因にアプローチできるのではと考えた。「近年海外でも研究が進められ始めていますが、研究はまだまだ途上です。それならば自分が世界に先駆けて技術を開発したい考え、研究の方向性を決めていきました」。
現在所属する講座はオルガノイドを用いたがん治療薬の研究を主軸としながら、老化の研究も行っていた。学部2年の夏に門戸を叩き、関連論文を読んでは齋藤義正教授と議論し、現在のフロンティアとその先の未開拓領域を見定めるのに4ヶ月。そして「部分的リプログラミングに最適な低分子化合物の探索」を自らのテーマとし、現在まで研究を進めている。

化合物で細胞の時計を巻き戻せ

細胞のリプログラミングは、分化後の細胞を未分化な状態に戻したり、別種の細胞に転換したりする技術だ。これに対して部分的リプログラミングは、細胞の分化状態を変えずに、加齢等により蓄積されたエピゲノム変化を巻き戻す。これにより、様々な加齢関連疾患の治療をできるのではと期待されて研究が進んでいる。「ただ現状は、iPS化を誘導する山中因子を細胞に暴露する期間を短くするアプローチが一般的で、安全性と実用性の点で課題が残ります」。これに対して、長谷川氏は細胞の分化状態に影響せず、がん化のリスクも少ない化合物の組み合わせを探索している。今回の申請は、ここにタウリンを加えることによる効果の評価を行うものだ。「広範な抗老化作用を持つタウリンがどう効くのかに期待しています。老齢マウスの腸管上皮組織の細胞では、その分化のメリハリがなくなっていることがわかっており、このような加齢変化が組織および個体の恒常性の喪失に関係する可能性があると考えています。これを正常化するのにタウリンや部分的リプログラミングが効くのではと仮説を立てています」。今後、マウスやオルガノイドを用いた評価やシングルセル解析なども含めて、表現型からメカニズムまで広く捉えていこうとしている。
さらに長谷川氏は、老化の解明と克服を目指す若手の研究者を中心とした任意団体「エイジング若手研究者連盟SAKRA」を立ち上げ、産官学を問わない異分野融合的な議論の場を作っている。「多様な価値観のもとフラットに議論できる関係性からイノベーティブな共同研究を創出し、それを社会に実装していく」と話す長谷川氏の今後に期待したい。(文・西山 哲史)