採択者の声

2024年3月公募第64回リバネス研究費

第64回 エステー賞 募集テーマはこちら

岡山大学 異分野基礎科学研究所 特任助教

加藤 利喜さん

採択テーマ
土からつくる空気浄化剤の開発

自然から採れる土で空気を浄化する ~研究テーマの創発を社会から取り入れる~

グラファイトや粘土鉱物をはじめとする層状鉱物の剥離により得られたナノシートを組織化すると、様々な機能が発現する。この構造化プロセスの制御に関する研究を行っている加藤氏は、これまでの知見を活かして、粘土鉱物から得られたナノシートを精密に組み立てた空気浄化剤の開発を目指して本研究費を申請した。

粘土鉱物がつくるナノ構造に魅せられる

加藤氏は、ナノシート状の粘土鉱物を溶媒に分散させると、 それらが自動的に配向して組織化することに興味を持って研究を始めた。このようなナノシートの組織化によって現れる性質や機能は、原料である粘土鉱物の組成や形態、組織化の具合によって多様にデザインすることができるのだという。現在は、粘土鉱物を対象として、ナノ構造の制御やそれによって現れる機能の評価を行っている。その中で今回の研究費の応募に際して注目したのが、土壌に含まれているモンモリロナイトという、ケイ素やアルミニウムなどで構成されるナノシートだ。化粧品や吸着剤としての利用のため古くから研究されてきており、成分元素の比率が少し異なるだけでも、吸着性や水への分散性などの性質が大きく異なることが知られている。粘土鉱物は産地によって成分比が異なるため、モンモリロナイトのナノ構造を形成させた時の性質にも差異が生じるのだ。研究を進める中で、加藤氏が今回の申請につながる発見をしたのは山形県産のモンモリロナイトを調べた時 だった。水を加えた時、多種のものと比較して、モンモリロナイトは 1000 倍ほど均一に配向したのだ。

研究費申請で空気浄化への応用にたどり着く

 この発見の後、モンモリロナイトの組織化について条件検討を行いながら、この材料をどのように社会で有効利用できるかを考えていたという。「例えば、筋肉の繊維のように配向させることで、人工筋肉に使えないかと考えたこともありました。今回のエステー賞の募集記事で森の力で空気浄化するクリアフォレスト事業を知り、土の力を空気浄化に使うという新しいアイデアが生まれました」と申請の経緯を語った。加藤氏は、ナノシートの組織化により生まれたナノ空隙により、効率良く空気中の有害物質の吸着除去に活用できるのではと考えたのだ。申請のための予備実験として、できた材料の吸着能を調べたところ、消臭剤として使われる活性炭よりも大きな吸着能を示した。加藤氏が思案を続けていた、組織化した粘土鉱物由来の材料の活用方法が新たに見つかったのだ。

事業者との議論で次なる研究の道標をつくり出す

研究費の審査で行った議論では、エステーならではの視点が、加藤氏が研究を進めるための刺激になったという。開発した空気浄化剤を消費者にうまく使ってもらうには、使用期限が視覚的にわかるようにできたら面白いという意見が出た。加藤氏にとって社会実装を進めるために、どのような機能を付与するべきかを考え、次の発展的な研究の道標になったという。「今後も研究者として成果を世に残していきたい。その中で基礎研究として論文を残すのもひとつだが、他の人が成果を活用できるようにする応用分野にも貢献していきたい」と語った。本研究費を通して、基礎研究者の発見が生活を豊かにするかもしれない応用研究につながる一歩目が始まった。

(文・八木 佐一郎)