採択者の声

2023年9月公募第62回リバネス研究費

第62回 京セラ賞 募集テーマはこちら

北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 日本学術振興会特別研究員PD

張 葉平さん

採択テーマ
ハイスループット実験による高効率水素生成光触媒の探索

ハイスループット実験で描き出す、光触媒実用化に向けた地図

光触媒による水分解反応はクリーンな水素製造法として期待されているが、その効率の低さが実用化を阻んでいる。張氏は、光触媒としての最適な材料探索を大規模かつ網羅的に実現する実験系の確立を目指している。

 

光触媒による水素製造実用化の壁

光触媒の性能には、光吸収とそれに続く励起した電子/正孔を触媒表面に届ける物理的な働きと、その電子/正孔を受け取り触媒表面で実際に反応を起こす触媒的な働きの2つが大きく影響している。光触媒のいくつかは、実用化の検討段階に入っているものの、未だ多くの光触媒において、光エネルギーから水分解反応エネルギーへの変換効率は1%程度と、実用化の目安となる10%以上に遠く及ばない。しかし、光触媒を構成する半導体と助触媒の素材の組み合わせは無限にあり、一つ一つを調査していくだけでも大変な仕事だ。さらに、触媒の効率が低い場合、その原因が物理的な働きにあるのか、触媒的な働きにあるのかを判別するのは困難であった。この課題に対して、張氏はこれまで経験的によく使われてきた光触媒の材料に限定せず、その探索範囲を一気に拡げていくことでブレイクスルーを起こせないかと考えている。

反応プロセスを切り分けて光触媒を評価する

半導体と助触媒の組み合わせを探索する上で重要となるのが、張氏が見出した各反応プロセスの温度依存性の違いである。この挙動を活用すると、半導体と助触媒のそれぞれの寄与を切り分けて、光触媒の性能評価ができる可能性がある。どの反応プロセスが律速か特定できるため、半導体と助触媒の最適な組み合わせを考える新たな指標になりうるという。そこで張氏は、様々な光触媒材料の網羅解析を可能にするハイスループット実験系を立ち上げ、この評価を行おうとしている。反応条件や用いる化学物質の物性によって機器や測定法が異なる化学反応のハイスループット実験はそれぞれの反応に合わせて系を開発する必要がある。今後、ロボットピペッティングによる秤量の自動化や非撹拌測定などの基本的な操作から始まり、同一光触媒における連続実験技術の確立を行っていく。

探索範囲の拡大で革新的な光触媒開発を目指す

必要となるハイスループット実験装置を構築後、まずは100種類程度の光触媒についての検討を行い、光触媒材料の候補に対して、電子供給プロセスに関わる半導体と表面の触媒反応に関わる助触媒の性能を評価、性能順にプロットしていく予定だ。張氏はこのデータを蓄積していくことで、「光触媒プロセス別能力マップ」を作り上げられるのではないかと構想している。将来的には、このマップを活用して、実用的な光触媒の探索を可能にしていくのが目標だ。今回の研究が進展し、近い将来、光触媒研究の新たなプラットフォームが構築され、エネルギー開発の現状に革命を起こすことを期待したい。(文・重永 美由希)