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2022年6月公募第57回リバネス研究費

第57回リバネス研究費 ニッスイ賞 募集テーマはこちら

静岡大学 創造科学技術大学院 自然科学系教育部 博士課程1年

吉野 朱香さん

採択テーマ
出汁がヒトの気分や満足感に与える影響―AIを用いた脳波解析からの検討―

出汁から得られる満足感を脳波から見る

近年の健康食ブームの中、注目を浴びる日本食。特に出汁はそのうま味を効かせることで、食塩や動物性油脂を減らしても満足感を得やすくなる、と言われることが多い。そのとき我々の脳内ではどんなことが起こっているのか、静岡大学の吉野氏は脳波から解き明かそうとしている。

日本食が人に与える影響を探る

食事をして人が満足した気持ちになるのはどんなときだろうか。「おいしい」と感じて心理的欲求が満たされること、食欲という生理的欲求が満たされること、その両方が関わっている。食の健康志向が高まる現在、栄養バランスだけでなく、食によって「満足感」を生むことが、食べ過ぎによる肥満を防ぐなど健康維持にとっても効果的なのではないか。そこで日本食が生む満足感に注目したのが吉野氏の研究だ。

日本食の特徴の一つである出汁には、グルタミン酸やイノシン酸などのうま味成分が含まれ、抗疲労効果や抗ストレス効果、満腹感をもたらすといった健康効果が知られている。吉野氏は単一成分ではなく、より実際の食事に近い、複数のうま味成分を含んだ出汁そのものに着目した。出汁の摂取が人に満足感をもたらすのではという仮説のもと、脳波という生体信号から定量的に満足感を評価しようとしている。

満足感の脳内パターンとは?

そもそも食の満足感という複雑な感情を定量化するには、現時点で確立された手法はなく、アンケートなどの主観的評価が中心だった。類似の先行研究としては、心地よさなどのポジティブな感情を脳波から評価する「快適度評価モデル」というものが提唱されているが、主に前頭前野のみの脳活動解析に留まる。そこで吉野氏は、こうした既存のアプローチに加えて、新たに脳内ネットワークの解析を取り入れる考えだ。被験者が出汁を摂取した際の脳波による特定の脳活動部位を調べるだけでなく、脳部位どうしの時空間的なつながり(ネットワーク)のパターンもAIで調べる。併せて、主観的な満足感や、血糖値、唾液中のストレスホルモン値との対応を検討することで、出汁の満足感を示す脳内パターンを明らかにすることを目指す。

なお、正確な脳波解析にあたっては、脳波に混入するノイズを適切に低減することも欠かせない。吉野氏の研究室では近年、目の動きなどによる眼球電位のノイズを低減する信号解析手法の研究に着手しており、今回の研究にも適用する予定だ。

食べる人視点の研究を

実は前回のリバネス研究費ニッスイ賞にも応募しており、二度目の挑戦で今回の採択に至った。「『食べる“人”視点の研究』という募集要項を見て、まさに自分の研究と合致すると感じたことが申請の後押しになった」と話す。また、博士課程への進学を通して脳波解析への知識を深めたことで、AI解析の要素を加えるなど研究計画を大幅にアップデートすることもできたという。「人を対象とした研究は、同じ実験をしても被験者のその時々の状態によって結果が異なってくることが面白い。その要因を一つずつ明らかにしていきたい」と意気込む吉野氏。脳波を切り口に、満足度という食べる「人」の視点に立った指標の確立を目指していく。

(文・滝野翔大)