沿岸海洋生物資源の回復につながるあらゆる研究
下記に関連するような研究を広く募集します。
・海草、海藻に係る生態学的研究
・海洋生物資源のモニタリング・回復・活用に係る研究
・沿岸域の豊穣性向上に係る人工的構造物に関する研究
・豊かな沿岸生態系による観光・地域活性化に係る研究
設置企業・組織 | 潮だまり財団 |
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設置概要 | 採択件数:最大20件 |
スケジュール | 応募締切:2024年7月31日(水)18:00まで 審査結果:2024年9月ごろにご連絡予定 |
募集対象 | ・大学・研究機関に所属する40歳以下の研究者 ・海外に留学中の方でも申請可能 ・研究室に所属して研究を始めていれば、学部生からでも申請可能 |
- 担当者より一言
- 潮だまり財団は、2024年4月の新設の財団で、沿岸海洋生物資源の回復を目指し、普遍的価値の追求とその実践を理念に掲げております。沿岸生態系悪化を食い止めるには、課題の根っこを捉え、状況を覆す確かなサイエンスとテクノロジーが必要です。本賞を通じて、豊饒な海を取り戻すためのアイデアを持つ若手研究者を支援し、新たな知見の創出に貢献したいと考えています。多くの才能あふれる方々のご応募をお待ちしております。
リバネス研究費の申請について
設置企業インタビュー記事
潮だまり財団
理事 篠澤 裕介 氏
理事長 川口 晋 氏
理事 高倉 葉太 氏
人工潮だまり構想を実現する、超異分野研究チームを結成する
干潮時、磯などの岩場に現れる「潮だまり」には多様な生物が生息することで知られている。2024年4月、この潮だまりの名を冠した財団法人が立ち上がった。沿岸海洋生物資源の回復を目的に、「潮だまりメソッド」の追求と、それに必要な研究支援をミッションに掲げる。今回のリバネス研究費潮だまり財団賞の設置を通じて、この始まったばかりの未知なるプロジェクトの実現に必要な、多岐にわたる分野の仲間を募る。
人の手による荒廃には人の手による回復が必要
ミッションにある「潮だまりメソッド」とは、吟味選定された沿岸海域に対する、沿岸海洋資源生物のための効果的かつ具体的な方法のこと。この方法には構造変更・造作なども伴う。すなわちその構想は、生き物を育む「潮だまり」を人工的につくり沿岸生態系の回復をしようというものだ。産業革命以降、世界中で進んだ沿岸地域の開発と同様に、高度経済成長期の日本においても沿岸都市部に人口・産業が集中し、浅海域は埋め立てられ、大量の廃棄物・排水が発生し、沿岸域の生物資源を著しく荒廃させてきた。その有害性に気づき、汚染物質の排出抑制が行われた結果、水質改善がなされた反面、生物資源の回復には至らず、かえって減少の一途を辿っている。例えば、瀬戸内海はその水質悪化から1978年に瀬戸内海環境保全臨時措置法(瀬戸内法)が制定され排水規制がなされ水質は改善したものの、栄養塩の不足による養殖ノリの色落ちなどが目立つようになり、2022年に排水規制を緩和する改正法が施行されている。高度成長期の三重県四日市市に生まれ育った川口氏は「経済成長と反比例のように荒廃していく海を見ながら、これを元に戻して返せと未来の子どもたちに言われているような気がして、学生時代からずっと忘れずにいました。そしてようやく夢の実現に向けて動き出しました」と話す。生物資源減少の原因として、栄養塩類供給の不足、酸素供給の不足、赤潮などの原因細菌に対する競合細菌の不足、繁殖産卵場の欠如などが考えられるが、これらに対してただ単に水域に生育する生物群に任せて待つだけでは、回復は見込めない。人の手で撹乱し荒廃させてしまった沿岸海洋生物資源の回復のためには、人の手による対策を講じることが必要だと考えている。
未知のリスクに挑むため、研究する
その姿を誰も知らない人工潮だまりには、当然ながら未知のリスクが存在する。しかしながら生物資源回復のための施策が、さらなる荒廃や予期せぬ副作用を招くわけにはいかない。適切なリスク管理をし最も効果的な手を打つためには、研究をベースとしたエビデンスを元に計画・実行することが重要だ。そしてそれは一分野一領域の研究だけでは決して成立しない。そもそもどんな場所につくるか、計画には海洋調査のための測量技術や海洋ロボットなどの技術が求められる。実際に施工するためには、海洋土木の知見が必要であるし、新たな素材の開発が必要かもしれない。また、回復した生態系の評価をどのように行うか。さらにはELSI(Ethical, Legal and Social Issues)/RRI(Responsible Research and Innovation)実践のため、科学技術の影響を探索的・予見的にいかに把握・対応するか。効果の最大化、持続性のためには経済性の評価も必要だ。
実海域での実証への動きは、もう始まっている
2024年3月に開催した超異分野学会2024東京・関東大会では、財団設立に先立ってパネルセッション「手付かずの海から手塩にかけた海へ」を実施し、3名の研究者と構想に向け意見を交換した。九州大学の菅浩伸氏からは沿岸浅海域の高解像度地形図作成を可能にするマルチビーム測深技術について、長浜バイオ大学の小倉淳氏からは赤潮人工制御技術について、和歌山工業高等専門学校の楠部真崇氏からはアマモ場保全に使うためのバイオセメント技術について紹介、それぞれの知見が人工潮だまり作りにどのように活かされるかを議論した。実海域での実証実験には、地元住民や行政との調整といった技術的な課題以外にもクリアすべき問題が存在するが、すでに1箇所の実海域との調整が進んでおり、実証の実現に向けて動き出している。この未踏の取り組みを実現させるため、ともに研究を進める仲間を待っている。
(文・瀬野 亜希)
超異分野学会2024東京・関東大会でのパネルセッション「手付かずの海から手塩にかけた海へ」の様子
下記リンクより、パネルセッションのアーカイブ動画を視聴いただけます。(リバネスIDでのログインが必要です)
https://id.lne.st/broadcaster/videos/a4oIR000000M4CeYAK?tag=HIC