リバネス研究費

  • HOME
  • 実績
  • 第62回 東洋紡 高分子科学賞

2023年9月公募第62回リバネス研究費

第62回 東洋紡 高分子科学賞

高分子材料の基礎的、汎用的な研究

高分子材料に関する幅広い“科学”研究を募集します。キーワードとして、有機合成、重合反応、有機・無機化学、材料科学、熱力学、相平衡、組織形成、電気化学、表面・界面化学などが挙げられますが、これに限りません。幅広く、高分子材料に関する基礎的または汎用的な研究を対象としています。

設置企業・組織 東洋紡株式会社
設置概要

採択件数:若干名
助成内容:研究費50万円

スケジュール 応募締切:2023年10月31日(火)18:00まで
審査結果:2024年1〜2月ごろにご連絡予定
募集対象 ・大学・研究機関に所属する40歳以下の研究者
・海外に留学中の方でも申請可能
・研究室に所属して研究を始めていれば、学部生からでも申請可能
担当者より一言
東洋紡は、創立から140年の時を経て、これからも素材+サイエンスで人と地球に求められるソリューションを創造し続けるグループを目指します。このために、高分子科学(ポリマーサイエンス)に関する幅広い分野から研究テーマを募集し、ご支援します。新しい材料や応用分野への展開を視野に入れたテーマのみならず、原点を見据えた基礎研究も含めた“サイエンス”の提案を歓迎いたします。
Beyond Horizons 超えていこう、もっと先へーー 皆さんとともに。
設置企業インタビュー記事
東洋紡株式会社
コーポレート研究所 プロセッシング基盤ユニット 部長
杉原 秀紀 氏

この機能の本質はどこにある? その追究が、高分子材料の進化を支える

今回で3回目の設置となるリバネス研究費 東洋紡 高分子科学賞の対象分野は、引き続き「高分子材料の基礎的、汎用的な研究」だ。その徹底した方針の背景には、基礎的なテーマに取り組む研究者への期待や、研究に対する考えがある。入社以降、「分析」という視点から東洋紡のユニークな高分子材料の開発を支えてきた杉原 秀紀 氏のお話からも、それをうかがうことができた。

 

優れた製品の開発には、分析が欠かせない

杉原氏は、入社後すぐに配属になった分析センターで23年間を過ごしたという、東洋紡の社員の中でも異色の経歴の持ち主だ。専門は高分子の表面の解析で、原子間力顕微鏡や光電子分光分析(ESCA; Electron Spectroscopy for Chemical Analysis) を用い、表面のごく薄い層を見てきた。分析センターでは、繊維やフィルムの表面構造と機能性の関係を検討する案件を多く扱ってきたという。2020年の4月にコーポレート研究所に異動し、現在に至る。
分析センターの業務は、事業部や工場など、全社から持ち込まれる分析案件が多い。新しい製品の解析や、工場で生じたトラブルの分析を行うこともある。一方で、杉原氏は積極的に、分析センターのスタッフとして事業部の開発プロジェクトに加わってきた。「新しい製品を開発していく過程で必要な、機能性を発現するメカニズムの解明を担当します。分析結果を基に、こういう設計にしたらいいんじゃないか、という提案をするのです」。分析センターのスタッフは、素材の開発に直接関わるわけではないが、その素材の特徴となる機能や物性を生み出すために欠かせない存在なのだ。

 

身近なポリプロピレンの知られざる進化

ポリプロピレンを主原料とした「二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム)」は、スーパーで見かける野菜の袋やお菓子の包装などに使われる、非常に身近なプラスチックだ。透明でコシがあり、防湿性が高いといった特長が認められ、急速に普及した。東洋紡も、1964年3月から生産を開始している。こんなに古くから存在し簡単に手に入るこの素材が、まだ進化を続けていることを知っていただろうか。
東洋紡では、このOPPフィルムに8つものラインナップを揃えている。例えば、鰹節など静電気で袋の内面に付着してしまう傾向がある食材に向く「帯電防止タイプ」、野菜など水分が多い食材に使える、フィルムが水滴で曇らず、鮮度保持機能も向上させられる「防曇タイプ」など。ポリプロピレンという原料は同じでも、用途に合わせて様々な機能が付与されているのだ。これらの機能を生み出す際に非常に重要なのが「この機能の本質は何なのか」という問いに向き合うことだと杉原氏は言う。なぜ、この材料はこの物性を有するのか。求める機能をより高く発揮させるには、どうすればいいのか。この深い洞察を行うには、ポリプロピレンという材料についての知見はもちろん、「東洋紡 高分子科学賞」のテーマである「高分子材料に関する基礎的、汎用的な研究」を行っている研究者の視点が必要なのだ。

 

技術が発展した今だからこそ、見えるものがある

「東洋紡 高分子科学賞」の審査には、杉原氏も昨年度から参加している。今年度の募集について、「昔ながらの高分子の基礎的な研究、例えば私と同じように解析をされている方などの応募がもっとあるとうれしい」と杉原氏。今は、手軽に使える走査型電子顕微鏡や原子間力顕微鏡から、放射光による高度な構造解析まで、装置や技術が発達している。それらを使えば、同じ材料でも昔はできなかった分析ができる。わずかに合成方法を変えただけで、今の技術なら違う結晶構造が見えてくるだろう。これは若手には圧倒的なアドバンテージがある、という杉原氏の言葉には、長く分析に携わってきた研究者だからこそこもる熱がある。
「プラスチック、高分子材料の研究はもう流行らないのかもしれない。でも、世の中でたくさん使われている材料でもあるので、その基礎的な研究が大学でもっとされているといいですね」。世界中に普及し、すでに完成しているように見える素材でも、消費者には見えないところで研究をしている人がいる。優れた製品の裏には、代々の研究者の努力の積み重ねがある。「東洋紡 高分子科学賞」では、地味だけれど、本質的な部分をしっかり理解し基礎研究に取り組む研究者に光を当てていく。(文・磯貝 里子)

 

 

現在募集中のリバネス研究費