新時代の美をつくる化粧品原料開発に関連するあらゆる研究
1.サスティナブルもしくはエシカルな化粧品原料候補もしくは原料製造を支える研究
2.人の感性や感情に働きかける新たな化粧品原料もしくは原料製造を支える研究
3.化粧品原料の物性と人の感性との関係性に関する研究
設置企業・組織 | 株式会社ダイセル |
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設置概要 | 採択件数:若干名 |
スケジュール | 応募締切:2023年1月31日(火)18:00まで 審査結果:2023年4月ごろにご連絡予定 |
募集対象 | ・大学・研究機関に所属する40歳以下の研究者 ・海外に留学中の方でも申請可能 ・研究室に所属して研究を始めていれば、学部生からでも申請可能 |
- 担当者より一言
- 新たな化粧品原料の開発につながる研究と出会えるのを楽しみにしています。環境や倫理に配慮した素材やそのような合成法など、化粧品原料として開発してこなかったものでも構いません。また、素材に関する分析を物性以外の視点から行う研究も共に募集しています。みなさんのアイデアを元に、新たな価値のある化粧品原料開発に共に取り組みたいと考えています。
設置企業インタビュー記事
ヘルスケアSBU 事業推進室 事業戦略グループ 佐藤 智彦氏 (写真左)
素材技術で新時代の美を実現する
地道に製造技術を磨き上げ、日本のセルロイド産業を世界一へ押し上げたダイセルが、化学品メーカーとして取り組んでいる分野の一つが「化粧品原料」だ。ユニークかつ高品質な原料で「美」を支えるだけでなく、今、新たな「美」に対する価値を持った素材の開発に挑戦しようとしている。
歴史ある原料、酢酸セルロースに見いだされた新たな価値
ダイセルでは、難燃性の酢酸セルロース樹脂「アセチロイド」を引火性・発火性の高いセルロイドの代替品として開発、1938年から製造を続けてきた。はじめは難燃性が売りだった素材だが、昨今の海洋プラスチック問題からその「生分解性」に注目が集まっている。PET樹脂などは自然界で数百年経っても分解されないのに対して、酢酸セルロースは1〜3年と比較的短い時間で分解されるのだ。さらに、同じく生分解性樹脂として注目されるポリ乳酸と違って海洋中でも分解される。海洋プラの問題に対してはこの上ない素材だが、本来熱可塑性の低い酢酸セルロースは加工が難しい。しかし、創業当初からセルロース系樹脂を取り扱ってきたからこそ、ダイセルには成形技術が蓄積していた。環境負荷の低い新たな可塑剤の利用やポリマーアロイの技術を駆使し、酢酸セルロース樹脂を思うがままに成形することができたのだ。これまで用いられていた液晶や写真用のフィルムやフィルタ、アセテート繊維に加え、真球度の高い微粒子を作る技術を磨き上げて生み出したのが、化粧品原料であるBELLOCEA®だ。
加工技術で美を創る素材を生み出す
もともと酢酸製造など、合成化学のベースとなる素材製造を行っていたダイセルは、純度の高い素材を合成する技術を持っていた。直接肌に触れる化粧品原料にとって純度は重要なポイントであり、保湿剤や界面活性剤など化粧品の基材となる原料として化粧品メーカーに選ばれてきた。新たに生み出されたBELLOCEA®もパウダーファンデーション等の基材に利用できる素材だ。一番の特徴はその真球構造にある。粒子表面の構造は肌当たりや伸びの良さに影響する性質であり、なめらかな真球構造成形にこだわって開発された。さらに、均一な粒径や表面の状態のバリエーションにより、光の反射具合を調整することにも成功している (図)。この機能によってなめらかなつけ心地とともにふんわりした肌やつややかな肌など、消費者の求める美的要素を付加することができるのだ。また、近年特にファッション・美容業界では環境保全や社会貢献を考えた「エシカル」な製品に注目が集まっており、化粧品のマイクロプラスチックビーズもよく取り上げられる課題である。真球度の高いビーズはこれまでナイロン等の成形が簡単な石油プラスチック素材でしか実現が難しかったが、これを海洋分解性のある酢酸セルロースで実現できたのはダイセルに蓄積した技術の賜物だ。高い素材製造技術によって単に美観をつくる性能を与えるだけでなく、「環境に優しい」というエシカルな価値を付加した新たな原料を生み出すことができたのだ。
価値を組み合わせ新たな化粧品原料を開拓する
酢酸セルロースのもともとの用途は、フィルムやメガネフレーム、繊維やそれを用いたフィルタであって、化粧品原料になるとは考えられていなかった。「酢酸セルロースと同じように、化粧品原料として新たな価値を生む素材や製造法が、他にも存在するのではないか」と稲井田氏は語る。そのような原料や製造法に出会うのが今回の研究費設置の目的の一つだ。特に、エシカルな製品への注目の高まりから、環境調和性や倫理性の高い素材や製造法につながる研究に期待を寄せている。一方で、「美につながる価値と素材の性質との関連性の可視化につながる研究も進めていきたい」と語るのは長らくファンデーション開発に関わってきた佐藤氏だ。「ふわふわ」や「つやつや」など定量化しづらい化粧品の指標と素材との間を行き来してきたからこそ、素材の製造方法やその物質的評価だけでなく、その後の心理的・社会的評価の方法も必要だと考えている。心理学、社会学、感性工学、生体計測などを組み合わせていくことで、これまでできなかった感性に関わる指標の定量化につながる研究との出会いが研究費設置のもう一つの目的だ。素材開発の世界はともすれば美容・ファッション業界からは遠く離れているようにも思うが、実際は密接に関与しあっている。素材開発を美の視点から眺めることで新たな発想が生まれてくるのではないだろうか。
(文・重永 美由希)