リバネス研究費

2022年9月公募第58回リバネス研究費

第58回 京セラ賞

社会課題解決のための、やきものに関するあらゆる研究
セラミック素材や製造プロセスに係る研究 、セラミックスとの複合材料、将来的にセラミックスに置き換わる材料、環境、エネルギー等の新たな課題解決に向けた活用アイデアなど、既存のセラミックスの研究にとらわれない幅広い分野のテーマを募集します。

設置企業・組織 京セラ株式会社
設置概要

採択件数:若干名

助成内容:研究費50万円

スケジュール 応募締切:2022年10月31日(月)18:00まで
審査結果:2023年1月ごろにご連絡予定
募集対象 ・大学・研究機関に所属する40歳以下の研究者
・海外に留学中の方でも申請可能
・研究室に所属して研究を始めていれば、学部生からでも申請可能
担当者より一言
京セラは1959年の創業からファインセラミック製品を開発し、多くのノウハウを蓄積してきました。今後セラミック材料の新たな可能性を創造していくため、自分たちでは思いつかないような突拍子もないアイデアに出会いたいと考えています。きりしまR&Dセンターでは皆様が研究されている素材を様々な観点から総合的に分析することも可能ですので、一緒に議論する中で皆さんの素材の新たな可能性を発見するということもできるのではないかと考えています。あまり既存のセラミックス研究にとらわれすぎず自由な発想での申請をお待ちしています。
設置企業インタビュー記事
ものづくり研究所
所長 大嶋 仁英氏 、開発推進課 川井 信也氏、構造部品開発1課 北林 亜紀氏、FM開発課 谷川 康太郎氏

セラミックスの新境地を探し求めて

1959年に稲盛和夫氏が創業したときから変わらず、ファインセラミックスを活用した部品は京セラのコア技術だ。長年職人的に製造ノウハウを積み重ねながら、先端技術を開発しつづけてきた京セラは、最近では大学と連携協定を結ぶなどアカデミアとの連携も積極的に進めてきた。その中で、新たな発想を求めて、より幅広い関係性の構築にむけて動き始めた。

 

生活の発展を支えてきたセラミック材料

 様々な製品を構成する材料は、大きく3つに分類される。金属(鉄・アルミ等)、高分子(プラスチック・ゴムなど)、そしてセラミックスだ。もともとは陶磁器を指す言葉だが、現在はガラス、セメントなどを含めた無機固体材料を総称してそう呼ばれる事もある。陶器の製法を思い浮かべてみると、粘土選びやその練り方、成形、乾燥、火入れに至るまで長年の経験をもとに細かくコントロールしてはじめてきちんとした製品が出来上がっている。それと同様に、工業的に利用されるセラミック材料も製造プロセスが材料の性能に与える影響がとても大きいことが特徴だ。特に、電気を通さず、過酷な環境でも安定性が高いという性質が、碍がい子し等の電気技術に不可欠な部品材料として採用されてからは、より高機能なセラミック材料の開発が続けられてきた。電子機器の発展が進むにつれて、半導体を水分や大気から守るためのパッケージとして採用され、また、コンデンサ等の電子部品材料にも取り入れられていった。

 京セラは創業時のブラウン管の絶縁部品製造から始まり、この時代の流れとともに化学組成、結晶構造、微構造、 粒界、形状、製造工程等が精密に制御された“ファインセラミックス”の製造技術を確立してきた。現在では調理器具や日用品、人工関節等の医療用途、更には蓄電池用のセルに至るまで、幅広い場所で利用されている。

 

価値を生み出し続ける京セラのものづくり気質

 小さな町工場から始まった京セラは顧客の需要になんとしてでも答えようとする中で、多くの知識とノウハウを蓄 積してきた。そのものづくり気質こそが、現在のセラミックスの製造での突出した地位を支えている。このファインセラミックスの研究を工場のすぐ横で推進してきたのが、 鹿児島にあるものづくり研究所だ。セラミックスは金属や高分子では耐えられない場面、例えばロケットエンジンの噴射口等に使用されている。「何よりも、過酷な環境に耐えられるところがセラミック材料の魅力」と語る川井氏は、材料特性と長期信頼性とを両立させたパッケージ用の材料開発に取り組んできた。一方で「元素の性質をうまく引き出すことで、全く異なる性質の材料が作れるのが魅力」と語るのは大嶋氏だ。一般的には電気を通さないセラミックスだが、電気を通す性質を持つものも作り出すことができる。これらの機能を複合化したSOFC (固体酸化物形燃料電池) の開発に携わってきた。  

 二人に共通するのは「材料を自分の目で見たい、触りたい」という思いの強さ。単にデータを眺めるだけではなく、 自分で物をみながら分析結果を吟味しなければ本当の意味で現象は理解できないという。プロセスの影響を受けやすいセラミックスの性質のためもあるかもしれないが、創業以来のものづくり気質が研究所にも浸透しているのだ。

 

開かれた研究所で共にワクワクする議論を

 43年の歴史を持つものづくり研究所だが、現在変革の時を迎えている。2022年9月にきりしまR&Dセンターを建設し、材料技術の研究を行う「ものづくり研究所」、プロセス技術の研究を行う「生産技術部門 」、各種分析と分析技術の研究を行う「分析部門」が同じ建屋内に一堂に会する事となった。それに合わせて、国分工場では初の外部の研究者・技術者が集まって議論することができるスペースを作り、技術情報の共有をはじめ、人材育成、イノベーションの創出の推進も目指している。「すぐ横に生産現場があるので、これまではどうしても事業部に即した研究開発が多く、先を見たテーマが少なめになりがちでした。工場で生まれる課題がちょっと先の未来だとすると、これからはそれよりももっと先をみた研究も強化していきたいと考えています」と大嶋氏は語る。今回の京セラ賞設置にあたり、 研究所からは「焼かずに焼けるセラミックス」や、「セラミックスと他の材料とのコンビネーション」、「製造プロセスの改善による脱炭素実現」等、様々なアイデアが飛び出したが、あえてテーマを広く設定した。発想を限定せず、 若手研究者のアイデアに共に取り組みたいという思いからだ。「これまでは私達が大学を訪ねることがほとんどでしたが、逆に研究者の皆さんからの発案でどんなアイデアに出会えるのかを楽しみにしています」。セラミックスの匠とも言える京セラの研究者たちと、新たな材料の可能性を生み出す議論をスタートしてみてはいかがだろうか。

(文・重永美由希)

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