ウイルス感染症研究や、免疫細胞を使った機能性評価に関わる研究
血球系培養細胞を用いた研究の応用展開を広げてくれる研究を募集します。「既存細胞株でのウイルス分離に課題を抱えている」「特定成分の免疫賦活化作用や炎症作用などの機能性評価に免疫細胞の使用を検討している」といった研究者からの申請をお待ちしています。
設置企業・組織 | マイキャン・テクノロジーズ株式会社 |
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設置概要 | 採択件数:若干名 |
スケジュール | 応募締切:2022年1月31日(月)18:00まで 審査結果:2022年3月末頃、ご連絡予定 |
募集対象 | ・大学・研究機関に所属する40歳以下の研究者 ・海外に留学中の方でも申請可能 ・研究室に所属して研究を始めていれば、学部生からでも申請可能 |
- 担当者より一言
- マイキャン・テクノロジーズは未成熟な血球細胞を用いて「感染症に怯えず暮らせる社会」の実現を目指す研究開発型ベンチャーです。今回感染症だけにとどまらず、機能性評価の課題も共に解決しようと挑戦してくれる研究者の方を幅広く募集します。ご自身が抱えている研究課題を我々の特殊細胞を活用して解決してみませんか?独創的なアイデア・難易度の高い課題に取り組む熱意のある方をお待ちしております。
設置企業インタビュー記事
宮﨑 和雄 氏
特殊血球細胞作製技術で、感染症・免疫研究用の新たな研究プラットフォームを生み出す
マイキャン・テクノロジーズは、2016年に宮﨑氏が設立したバイオベンチャーだ。iPS細胞から、赤血球・白血球(樹状細胞)になる前の幼若・未成熟な血球細胞を安定的に、大量に作り出す独自技術を強みとする。この技術で感染症や免疫賦活・炎症に関連した研究基盤を作っていく仲間を見つけるために、今回リバネス研究費マイキャン・テクノロジーズ賞を設置した。
感染症研究の課題から生まれた新たな宿主細胞
長年製薬企業で研究をしてきた宮﨑氏だが、インドへの赴任の際に、何人もの同僚がマラリアやデング熱に感染するのを目の当たりにし、依然残る感染症の危険性と感染症研究の重要性を肌で感じたことをきっかけに起業を決意した。
感染症研究を進める上での第一の課題は、そもそもの研究対象となるウイルスを分離することにある。ウイルスを含むであろう感染者の検体を用いて、増殖装置となる宿主細胞に感染をさせ増殖したウイルスを回収するというのが研究の第一歩だ。ところが適切な宿主細胞を用いなければ、なかなか感染・増殖せず、研究に必要なウイルスを分離してくることができない。
宮﨑氏はどうにかしてこの課題を解決し研究を加速できないかと考え抜いた。そして製薬企業時代にiPS細胞を使った創薬研究に携わっていた経験から辿り着いたのが、感染されやすい幼若・未成熟な細胞を宿主細胞として用いるアイデアだ。iPS細胞から分化誘導をしていく際、幼若・未成熟な細胞までは比較的作りやすいが、成熟した細胞を作ることは難しいというのが当時の創薬目的の研究では課題であった。しかし宮﨑氏はこれを逆手に取り、たくさん作ることのできる幼若・未成熟な細胞を利用することを思いついたのだ。
ウイルス感染症研究への活用に期待
このようなコンセプトの下、同社はiPS細胞由来の不死化ミエロイド系細胞株(Mylc細胞株)の作製に成功。Mylc細胞の宿主細胞としての利点が、研究により明らかになってきている。例えば、テングウイルスや新型コロナウイルス等いくつかのウイルスに対する感染感受性が、一般的に宿主細胞として使用されるVero細胞等と比較して同等かそれ以上であることが示されている。また、複数の咽頭ぬぐい液試料を用いた新型コロナウイルスの分離実験では、Vero細胞で培養してもウイルスを分離できなかった試料でも、Mylc細胞ではウイルス分離ができたという結果も得られた。またMylc細胞はiPS細胞由来に限らず血液からも作製可能であり、様々な人種・年代・動物種の細胞に対応できることからも、これまで分離が難しかったウイルスに対して、より適切な宿主細胞として提供できる可能性がある。既存細胞株でのウイルス分離に課題を抱えている研究者にとっては、一度試してみる価値のある細胞ではないだろうか。
免疫細胞を使った機能性評価への応用
感染症研究への志から生まれたMylc細胞だったが、別の活用方法も見えてきた。ウイルス感染と免疫反応は表裏一体で、ウイルス感染が起こると、Mylc細胞はIL-6等のサイトカインを産生したり、T細胞に指令を出すために変形したりなどの免疫応答を起こす。宮﨑氏はこの応答を、免疫活性の評価に使えないかと考えたのだ。実験してみると、既存細胞株に比べ免疫応答の感度が非常に良いことがわかった。これは継代を続けるうちに性質が変化し感度が鈍くなった細胞株と違い、iPS細胞もしくは血液細胞から作るMylc細胞は初代培養に近い状態にあるためと考えられる。
現在大学とも連携し、Mylc細胞を用いてシャーレ上で模式的に呼吸器組織を再現し、アレルギー反応を測定・評価する試みを始めている。シャーレ上で免疫応答を評価しようとすると、これまでは血液から免疫細胞を単離してくる他なかったが、特に樹状細胞は数が少なくほとんど単離できない上、毎回別の血液試料から調製するため再現性良く評価することが困難だった。Mylc細胞を使うことで材料としての細胞の調達が非常に簡単になり、再現性の点でも同じ条件での評価が可能になる。Mylc細胞単独でなく再現したい組織の細胞と共培養させることで、あらゆる組織・器官を模式的に再現し、生体内に近い免疫応答を見ることもできると考えている。細胞を用いた、特定成分の免疫賦活化作用や炎症作用などの機能性評価を検討している研究者は要注目だ。
Mylc細胞の活用の幅を広げる研究アイデア求む
今回の研究費設置に当たっては、Mylc細胞を用いた研究の応用展開を広げてくれる研究者と出会いたいという思いがある。なかなか単離できないウイルスの培養をMylc細胞で試してみたい研究者、何らかの機能性成分が免疫活性に与える影響の評価方法を模索している研究者など、Mylc細胞を使うことで研究を進めることができるという研究者からの申請を期待している。採択者には、研究に必要なMylc細胞をオーダーメイドで作製し提供することも可能だ。この機会をぜひ活用いただきたい。
(文・瀬野 亜希)