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2021年6月公募第53回リバネス研究費

第53回リバネス研究費 フォーカスシステムズ賞 募集テーマはこちら

神戸大学医学部附属病院 リハビリテーション部 作業療法士

大川 直子さん

採択テーマ
クリーンルームあるいは準クリーンルーム入室患者のVirtual Reality(VR)体験の影響

「自分らしく生きる」を支える作業療法のために先端技術を取り入れる

医療行為として処方される作業療法は、非常に個別性が高く形式化や効果の測定が難しい分野だ。大川氏は、医療従事者としての視点から現場に新たな技術を取り入れるための挑戦を始めた。

患者の生活を取り戻す作業療法

何かを見る、掴む、食事、入浴、運転、筆記等 … 病気や怪我によって生活に関わる“作業”に障害をきたす場合がある。そんなときに、患者が生活を取り戻すためのリハビリテーションを担うのが作業療法だ。患者個人個人の状況によって取り組むべき内容は全く異なる。障害に合わせて考案した訓練用ワークの実践、時には退院後のために自宅内の段差を病院に再現したシミュレーションも行う。これらの具体的治療計画の立案や実施補助を行うのが作業療法士の役割となる。うまく物を掴めない人に補助装具を手作りしたりと毎日が試行錯誤の連続だ。病状によっては体を以前と全く同じように回復させることは難しいこともあるが、患者一人一人のニーズを細かに聞き取り、訓練と創意工夫によって今後の暮らしを支えていくことが求められている。

閉鎖された病室にVRを

大学病院で作業療法士として勤務する大川氏が注目したのが、クリーンルームに入院する患者だ。骨髄移植患者は、術後免疫力が低下するために一定期間クリーンルーム内で過ごす必要がある。体力的な負担も大きい中、無機質な病室で僅かな医療関係者としか交流できない過酷な環境だ。VRを使えば、少しでも患者の精神的な負担を減らしながらリハビリに取り組んでもらえるのではないか。今回の調査研究は、そんなクリーンルームでのVR利用につながる第一歩として、安全性評価に取り組む。まずはストレスマーカーテストと質問紙調査を用いた試験になるが、この試験の中で実際に患者にVRを体験してもらいながら、利用の可能性を探っていく予定だ。

その人らしいに応える集合知

大川氏がVRに興味をもったのは、新しいリハビリ手法への期待と、作業療法が新しい技術に適応できなければ患者が取り残されてしまうという危機感からだった。「作業療法では、その人らしい生活を送れるようにすることが目標です。個別性が高いものだからこそ、できるだけ何にでも対応したい。そのためには世の中に普及し始める新しい技術について、作業療法士も触れていかないといけない」。しかし、VR導入実現には、院内ネットワーク構築、データ処理、コンテンツ作成、効果検証方法の検討と様々な分野の知識が必要となってくる。今回の受賞をきっかけに、分野外の専門家とのディスカッションも始まった。一人の作業療法士の熱い想いをきっかけに、医療の現場に新たな風が吹き始めたのだ。
(文・重永美由希)