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2020年12月公募第51回リバネス研究費

第51回リバネス研究費 扶桑化学工業賞 募集テーマはこちら

新潟大学大学院 医歯学総合研究科 摂食嚥下リハビリテーション学分野 助教

那小屋 公太さん

採択テーマ
果実酸が嚥下動態へ及ぼす影響

歯科医師が挑む、酸が摂食嚥下(飲み込み)に及ぼす影響の解明

近年、高齢者の肺炎発症者数は年々増加しており、肺炎による死亡率は上位に位置している。中でも食物や唾液などが誤って気管内へ落ち込む(誤嚥)に関連する「誤嚥性肺炎」による高齢者の死亡者数は急激に増えている。歯科医師でもある那小屋氏は、基礎研究の視点から、課題解決へ向けた研究を行なっている。

高齢者の誤嚥性肺炎課題に着目

大学院時代から咀嚼や嚥下関連の研究に従事し、現在は嚥下に関する臨床のみならず研究にも重きを置く新潟大学で、臨床医として現場の課題に向き合う那小屋氏。誤嚥性肺炎発症の誘因は様々だが、摂食嚥下障害による影響が特に大きい。「歯科治療の現場でも摂食嚥下障害による影響は大きく、患者さんが治療中にむせる時は姿勢を調節するなど工夫を行なっています」。那小屋氏が所属する研究室では年々注目度が高まっている本課題に対して新たな臨床的アプローチを提案したいとの思いから、摂食嚥下障害の病態解明や新たな治療戦略を見出すために、動物やヒトを対象とした基礎実験を行いながらこのテーマに挑んでいる。

少しずつ見えてきた酸と嚥下の関係

現在、摂食嚥下障害に対するスクリーニング法の一つである咳テストには、果実酸の一種であるクエン酸が用いられている。また、過去の臨床報告では、酢酸が嚥下反射惹起を促進するなど酸の嚥下に対する有用性が報告されている。しかし、その生理学的機序に関しては不明な点が多い。近年、那小屋氏の所属する研究室では、健常成人を対象として炭酸水摂取時の嚥下関連筋の筋電図解析を行い、炭酸水の泡刺激は、口腔内での保持量、および、嚥下時の咬筋と舌骨上筋の筋活動を増加させ、炭酸水が摂食嚥下リハビリテーションの方法として有用な可能性を報告している(Takeuchi Cet al.,Dysphagia,2020)。この研究結果を受け、「今回は食品成分として様々な食物に含まれる果実酸を用い、嚥下反射への機能的な影響や、さらに咽喉頭酸受容体との関係など分子生物学的な視点からもアプローチしたい」と語っている。

歯科治療現場における果実酸の可能性

例えば、大きな病院ではなく街の歯医者さんで簡便に嚥下機能の評価や、予防的に嚥下機能を維持できる方法などを指導することができれば、より誤嚥性肺炎発症を防げるのではないか。「果実酸が嚥下に対して有用であれば、うがい薬やガムなど歯医者さんにあるものに添加すれば歯医者さんに来ること自体がリハビリになるかもしれない。果実酸により新しい健康習慣が生み出せるかもしれない」と語る那小屋氏。嚥下と酸の関係が明らかになった先には、果実酸を扱う扶桑化学工業とのコラボレーションの可能性も大きく広がりそうだ。

(文・伊地知 聡)

担当研究員からひとこと

食品添加物等に使われる有機酸に関した商品開発を行っています。先生の研究内容には弊社が食品分野で有機酸製品の開発を行ううえで新しい切り口になる可能性を感じました。これまで我々がアプローチしてこなかった分野への訴求が可能であり、高齢化社会においてその社会的意義は大きいように思われます。これから議論を重ねて前に進めていけたらと思います。

扶桑化学工業株式会社 ライフサイエンス事業部 商品開発部
郡司 遼馬 氏