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2020年9月公募第50回リバネス研究費

第50回リバネス研究費 プランテックス賞 募集テーマはこちら

筑波大学 生命環境系 つくば機能植物イノベーション研究センター 助教

野崎 翔平さん

採択テーマ
植物一過的発現系「つくばシステム」と転写制御を利用した植物ホルモン生産法確立

植物による高機能物質生産により食農産業に革新を

植物でのエボラワクチンの製造やインフルエンザワクチンの治験など、植物による物質生産は世界的にも注目を浴びている。野崎氏は、医薬品の製造ではなく、農業利用を見据えた植物ホルモンの植物一過的タンパク質発現システムの構築に挑む。

農学の基礎から応用の世界へ

生命活動の根幹を成すタンパク質の魅力に惹かれ、その形や生命現象における詳細なメカニズムを明らかにするために農学部に進学した野崎氏。祖父が鹿児島で農業に携わってきたことから、農学部での研究を一次産業に貢献させるべく植物ホルモンやマメ科植物の根粒形成を制御する転写因子の構造や機能解析に関する研究に没頭してきた。植物ホルモンの中でも、野崎氏が着目したのはブラシノステロイド( brassinosteroid:BR )。BRは生殖成長、発芽、伸長成長、ストレス耐性付与など、多岐にわたる生理作用を持つことから、作物の増収効果に加えて、バイオマス増産にも寄与する。しかし、BRは複雑な骨格を有することから全合成のコストが高く、さらに生合成酵素の一部が未同定であることから微生物を用いた合成も困難であり、産業応用は進んでいない。そこで、着目しているのが植物を用いた低コスト生産システムの構築だ。

植物を利用したタンパク質大量生産系「つくばシステム」

植物による物質生産は、2012年に遺伝子組換えニンジン培養細胞によるゴーシェ病の治療薬が米国FDAの認可を受けて以降、インフルエンザ4価ワクチンや犬の歯周病予防のインターフェロンなど、医薬品を中心に治験や製品化事例も生まれてきている。野崎氏は、ベンサミアナタバコを利用した一過的遺伝子発現系において世界的にもトップレベルのタンパク質大量生産能力を持つ「つくばシステム」を用いて開発者の三浦謙治教授とともに、BRの低コスト生産にチャレンジしている。アグロインフィルトレーション法に用いるベクターを改良することで、従来世界的に使用されていたmagnICONシステムと比較して、高効率な発現系を達成した当システムにより、すでに、植物が本来有する内生量を遙かに上回る活性型BRの生産に成功している。

タンパク質の作りすぎを抑える機構を破壊する

実用化を見据えると、既存のつくばシステムだけでは、生産効率はまだまだ不十分だった。植物も動物と同様に、同じ物質を生体内で無制限に大量生産してしまえば、生命現象を維持することは難しくなるため、一定以上の物質を作りすぎなくするための転写制御機能が携わっている。植物内でBRを大量生産する場合も、このフィードバック調節機構により、多くの活性型BRが代謝され不活性化されてしまうと考えられる。そこで、BR代謝関連遺伝子を一過的に阻害・抑制する技術を構築することができれば、BRのさらなる大量生産が可能になるのではないかと仮説を立てて本研究を推進する。植物を利用したタンパク質生産を一気に効率化する基盤技術の開発に注目してほしい。

(文・川名 祥史)