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2020年6月公募第49回リバネス研究費

第49回リバネス研究費 フォーカスシステムズ賞 募集テーマはこちら

国立研究開発法人産業技術総合研究所 人間情報インタラクション研究部門 リサーチアシスタント /筑波大大学院 生命地球科学研究群 博士課程1年

竹原 繭子さん

採択テーマ
脳波スイッチによる認知機能評価システムの開発 ~認知症の早期発見に向けて~

回転図形を用いて、脳波による認知機能評価システムの開発へ

2020年における国内の認知症患者は約600万人に上り、その数はさらに増えると予想されている。認知症の治療には早期発見が重要視されているが、既存の認知機能検査には精度の点で課題も多い。そこで竹原氏は、脳波を使った新たな認知機能検査方法の開発に挑戦している。

運動機能に依存しない検査方法を

現在一般的な認知機能検査は、質問に対して返答したり、書字や図形描写などの筆記作業を伴うことが多い。しかし、動作が緩慢となりがちな高齢者では運動機能の影響を受けやすく、正確な評価は難しいという課題が存在した。そこで、 脳波を使った検査手法が注目されている。人は何かに注意を向けた直後に微小電位が脳内に生じる。そのような脳波は“ 事象関連電位(以下、ERP )”と呼ばれ、 認知症患者のERPは健常者と比べ、刺激を受けてから電位発生までに時間がかかり、特定のERPの最大振幅が有意に低下するといわれている。ただし波形パターンは個人差も大きく、これまでは患者群と健常者群の群間比較でのみ差がわかる程度であった。竹原氏がリサーチアシスタントとして所属する産業技術総合研究所の長谷川研究室では、ALSなどの患者の意思伝達装置に搭載された基盤技術を用いて、認知 症の早期発見に貢献する新たな認知機能評価システムの構築を目指している。

図形を回転させ認知力を問う

本申請で竹原氏は、認知症患者で特に低下する機能のひとつである視空間認知機能に注目した検査課題の開発を行う。人がなぜ道に迷うかに興味があり、地球科学を専攻し地図を読み解く際の思考を研究していた竹原氏。視空間認知機能で人は物の位置を把握し、方角を見失わずに目的地へ到達することができるという。「地理・空間情報は認知課題と相性がよく、特に物の方向を問う問題が応用できると考えました」。例えば、45度ずつ回転させた北海道の地理図形を紙芝居形式にランダムに見せ、見本と合致するものを脳内で選択してもらう(図1 )。その際に出現するERPを解析することで視空間認知機能の評価を試みるのだ。

認知機能の定量指標をつくる

ボタンを用いた回答方式を比較対象におき、考案した検査を健常者に実施したところ、課題難易度が高まるにつれ、より感度高く視空間認知機能を評価できる可能性が示唆された。今後は高齢者も対象に実証を行い、認知症予防のための脳トレ装置の開発なども進めたいという。「将来は、学力偏差値のように認知機能を定量的かつ客観的に評価する仕組みを作りたいです」。ERPの生波形は極めて微小でノイズの影響を受けやすく、個人差も大きいという。各人の定量指標とするためにはまだ多くの検討事項が残されている。「 脳の働きはとても複雑で面白いです。多くの人が脳の世界を探検していますが、地理学の成果も活用して“ 脳の地図”を作り、 認知機能を心配する高齢者や発達障がい児など多くの人の役に立てたいです」。異分野を股にかけ新発想を生み出す竹原氏の活躍に今後も目が離せない。

(文・尹晃哲)