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  • 第45回リバネス研究費 大正製薬ヘルスケア・ビューティケア賞 採択者 遠藤 彰さん

2019年6月公募第45回リバネス研究費

第45回リバネス研究費 大正製薬ヘルスケア・ビューティケア賞 募集テーマはこちら

London School of Hygiene & Tropical Medicine Department of Infectious Disease Epidemiology PhD course 3rd year

遠藤 彰さん

採択テーマ
ワクチン接種の自己決定に資するための、数理モデルを用いたワクチン効果推定手法の改良

人類は、感染症との終わりなき戦いを続けている。時折出現しアウトブレイクを起こす新しいウイルスや、季節性の大流行が起こるインフルエンザなどが、どのように人類社会に広がっているのか。
東京大学医学部を卒業し、現在はLondonSchoolofHygiene&TropicalMedicineで研究を進める遠藤氏は、数理モデルを武器に感染症動態を明らかにしようとしている。

家庭と感染とワクチンの関係を可視化する

遠藤氏は2019年、小学生1万人の流行状況調査データをもとに、インフルエンザの家庭内流行と個人属性(親、子、祖父母)との関係を推定した論文を発表した。家庭内での親子、夫婦、きょうだい等の接触ネットワークと感染リスクとの関係を解析したのだ。本採択テーマはこの研究を踏まえ、最適なワクチン接種行動をシミュレーションにより決定することを目的にしている。インフルエンザワクチンは個人による任意接種だが、多くの人が接種すれば集団免疫効果により流行の発生を抑えられる可能性がある。「ただ、集団免疫は個人として効果を実感しづらいのは事実です。そこで、分かりやすい“家族”を単位として、罹患リスクと接種効果を可視化できればと考えています」。MERSやエボラウイルス病、ジカ熱などここ10年のうちに発生した新興感染症と比べても、インフルエンザは流行の規模や死者の絶対数が桁違いだと遠藤氏は言う。変異が速く、ワクチン効率が完全でないなどの課題があるものの、「理論上はもっと抑え込めてもおかしくないと考えています」と話す。その戦略を考えるためにも、家庭や社会の中での関係性を考慮に入れた分析は役に立つはずだ。

終わらない戦いに、対策のアップデートを

現在のテーマに繋がる研究を遠藤氏が始めたのは、医学部3年生の頃だ。医学の中でも理論的な研究をしたいと考えて西浦博准教授(現在、北海道大学教授)の研究室の門を叩き、韓国におけるマラリア感染のモデリングに関わった。研究を始めた頃、医学部の中で「感染症の時代はもう終わったのではないか」という話もあったという。衛生状態の改善やワクチンの普及で克服できる疾患が増え、国際保健のフォーカスが生活習慣病に移っていた。「その1、2年後にMERSやジカ熱が出てきて、そんなに世の中シンプルではないと感じました」。人類には見えない動物の社会の中にも感染症流行があり、それが何かのきっかけで人の世界に出てくることでアウトブレイクが起こる。それを想像すると、今後も未知の病原体との戦いは続かざるを得ないだろう。折しも2019年末より、中国の野生動物市場が発端とされる新型コロナウイルスが猛威を振るっている。こうした一つ一つの事例をもとに、ウイルスと人間社会の関係を解き明かしていくことが、新たな感染症への対策のアップデートに繋がっていくだろう。 (文・西山 哲史)