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2019年3月公募第44回リバネス研究費

第44回リバネス研究費 フォーカスシステムズ賞 募集テーマはこちら

聖路加国際大学 公衆衛生大学院 生物統計学・生物情報科学分野 准教授

米岡 大輔さん

採択テーマ
高解像度衛星データを用いた機械学習による新しい疾病地図

近年、人工衛星に搭載されるセンサの性能向上と、ビックデータ解析技術の発展により、衛星画像データの様々な活用が進んでいる。これに対して、聖路加国際大学の米岡氏は、患者ビッグデータを結びつけ新たな疾患予測モデルの構築を目指す。発展途上国など従来手法では調査困難な地域の健康状態を予測しうる手段であり、世界にインパクトを与える研究として期待がよせられている。

衛星画像解析で医学・疫学研究に切り込む

農作物の収穫時期予想や、森林管理、震災発生時の状況把握、国内総生産の推計、さらには、アフリカ大陸のスラム街における所得の空間分布予測など、衛星画像データを活用して多岐にわたる研究が進められている。しかし、医学・疫学分野においては、統計学者やコンピュータサイエンティストが少ないが故に、衛星画像データと健康の相関を扱う研究は知見が蓄積されていないのが現状だ。そこで米岡氏は自身がこれまで培った機械学習モデルを用いて、高解像度衛星データと患者に関するビッグデータを結びつけ、疾患予測をするという世界初の取り組みに挑戦している。

疾患リスクを時空間的に予測する

米岡氏が主に着目するのが、大気汚染との相関が報告される、がん、呼吸器、心疾患だ。2010年には大気汚染が原因の肺がんで世界で22万人以上が死亡したと推定されている。また大気汚染は、交通量や工場の有無、風の影響など、その土地の環境による影響が大きいと見込まれる。それらの観点から衛星画像を捉え、患者データと環境を紐付けるのだ。従来の疫学研究は、医療機関などの特定の観測点から得られたデータを基に広範囲を仮定する手法がられていたのに対し、米岡氏が提案する手法ではたとえデータ取得が難しい地域でも高精度な予測が可能となると予想している。さらに、国内外の研究機関と協力し10年以上に渡る患者データを用いることで、一時点だけでなく時系列に沿った健康状態の変化を分析する点も大きな特徴だ。「居住環境と疾患リスクとの関連を、時空間的に予測したいと考えています」と意気込む。

調査困難地域に光を差し込む

「将来は、予測モデルにとどまらず予防・診断法の確立まで目指しており、健康状態の把握が難しい地域の住人のケアに役立てていきたいです」と話す米岡氏。現在、離島や山間部、スラム街など医療機関へのアクセスが困難な地域において、居住者の健康状態を把握することは困難である。そういった人々の健康状態を高精度で予測し、それに基づいた医療資源の最適配分を行いたいと考えているのだ。その第一歩目として、今回の研究成果を「疾病リスクハザードマップ」として社会に提供することを描く。本研究は、衛星データのみからある程度の健康状態を予測可能とする点において、日本のみならず発展途上国の調査困難地域においても大きな意味を持つ。世界に向けてどんな風を巻き起こしていくのか、これからの米岡氏の活躍に目が離せない。(文・金子 亜紀江)