2019年3月公募第44回リバネス研究費
第44回リバネス研究費 フォーカスシステムズ賞 募集テーマはこちら
宇都宮大学大学院 地域創生科学研究科 修士課程1年
佐藤 光磨さん
- 採択テーマ
- 介護施設におけるケアの質向上を目指したビッグデータ活用の試み
医療、農業、環境、航空宇宙など様々な領域でテクノロジーの進化が続いている。そんな中、農林水産業で言えば林業への先端技術の導入が遅れているように、看護現場においても、面倒なことや不便なことが昔のまま山積みになっている。佐藤氏はこういった現場の課題をいち早く認識し、ものづくりを通して解決すべく挑戦を続けている。
介護の現場で見えてきた課題
両親の入院をきっかけに、医療に関わる仕事に就きたいと考えるようになった佐藤氏は、宇都宮大学でものづくりを通して介護の課題を解決すべく現在の研究を始めた。その過程で、現場に足を運んでみると、作業記録や文書作成に膨大な時間をかけるなど、技術で解決できそうな課題を目の当たりにしたという。介護の現場における事故は、夜間の目が届きにくい時間に起こるベッドからの転落や歩き始めの転倒がほとんどを占めている。佐藤氏は現場の変化をいち早く検知できるように、人の体動や姿勢を精度良く判別できる次世代見守り支援機器の開発に乗り出した。
本当に使われるものをつくる
見守り支援機器としてこれまで使われてきた機器は、赤外線センサや人感センサを使って寝ている人の体動や姿勢を感知するもので、介護対象者の状態を正確に把握することは難しかった。佐藤氏の研究チームは、精度を上げるために弾性変形しやすい板状体に4つのひずみゲージを取り付け、ひずみ量を測定する“体動検知パネル”からなる支援機器を開発。パネルを肩部と腰部の位置で寝具のマットレスの下に設置し、そこに加える荷重の有無から、臥床・起上り・離床の3段階の体動を検知する仕組みだ。さらに、機械学習によって起上りを予測し、モバイル機器を介して看護師に通知することで、頻繁に行なっていた見守りを軽減させ、看護師の経験則から起こるヒューマンエラーも回避することができるという。無拘束・非侵襲かつ安価で設置が容易であるため、在宅看護への応用も期待される技術だ。
ものづくり×介護現場×ITのチームで挑む
本賞をきっかけに、近隣の介護老人保健施設においてナースコールシステム及び体動検知パネルを導入し、睡眠時のデータの収集・蓄積を開始する。収集したデータをもとに分析を行い、睡眠時の姿勢変化や体動変化などから夜間不眠や体調不良などの早期発見を目指す。佐藤氏の研究チームは、世界的にも先進的なものづくり力を有する宇都宮大学のロボット研究開発拠点“ロボティクス・工農技術研究所”の他、自治医科大学の看護・介護の現場に詳しい研究者とも連携している。ここにITシステムや大規模なデータ解析を得意とするフォーカスシステムズがチームに加わることで、より強力な体制が整ったと言えるだろう。超高齢社会が到来し、人生100年時代を迎えると言われる中、介護現場の課題解決を目指す佐藤氏のチームに注目してほしい。 (文・川名 祥史)