2017年9月公募第38回リバネス研究費
第38回リバネス研究費 カイオム賞 募集テーマはこちら
大阪市立大学大学院医学研究科 講師
瀬戸 俊之さん
- 採択テーマ
- Fabry病の病態解明とバイオマーカー探索を目的とした網羅的サイトカイン解析に関する研究
幼少期からつらい症状を引き起こすFabry病
リソゾーム病の中でも代表的な疾患として知られるFabry病は、四肢の疼痛、発熱による倦怠感を幼少期から引き起こす。特に四肢の疼痛は「手足に熱した火箸を押しつけられるような激痛だ」と、瀬戸氏は話す。痛みや倦怠感から学校に行けずに引きこもってしまう子どもたちも少なくない。これまでは早期に診断できる医師が足りておらず、気持ちの問題や心身症として経過をみられていたケースも多かったのだという。
Fabry病は、ヒトのX染色体上にあるαガラクトシダーゼ(α-GAL)遺伝子の活性が欠損することで、グロボトリアオシルセラミド(GL-3)を分解できずに体内に蓄積し、諸症状があらわれる。このGL-3は無治療のまま成人期まで蓄積されていくと、腎不全や心不全をも引き起こす。日本では、2004年よりGL-3を分解することのできる酵素の補充療法が保険適応になり、症状の改善や発症を遅らせることが可能となった。その一方で、数時間の点滴を2週間に1回の頻度で一生涯行わなければならないこと、投与を開始しても明らかな効果を実感しにくいこと、薬剤が高額であることなど課題も多い。また、症状が進行してからでは治療効果が乏しいことから、Fabry病の早期発見による早期の酵素補充療法開始が必要とされている。
Fabry病の早期発見のために
リソゾーム病の研究を大学院生時代から続けてきた瀬戸氏は、臨床医となった現在、Fabry病のバイオマーカーに着目している。患者の血液を用いて、組織レベルの炎症の程度を定量的に評価できないか。皮膚や腎臓、心臓の一部を採取するのではなく、血液検体を用いれば患者に大きな負担を与えることはない。そして、病態を正確に反映したバイオマーカーであれば、患者自身が現在の病態や病状を数値で知ることができ、Fabry病治療のモチベーションを高めることが可能になる。さらには、炎症に関与するサイトカインなどを何十種類も網羅的に調べることで、発症メカニズムの解明を目指している。将来的には新しい治療法の開発や早期発見の手法確立につながるのではないかと期待される。
患者に寄り添いながら根治を目指す
未だにFabry病を有する多くの方々は、未診断のまま諸症状で苦しんでいる可能性が高い。「病態解明の研究」が進むと、結果として根治療法の開発が可能となる。Fabry病のような根治療法がまだ見出されていない疾患克服のために、「実際の患者を多く診ている臨床医、病気のメカニズムを究明する基礎研究者、治療を実現化する技術と方法論を有する企業が三位一体となって連携していくことが重要だ」と瀬戸氏は話す。彼自身も、研究と臨床現場の両方に携わりながら、患者や家族に寄り添い、患者自身が治療し続けたいと思えるような根本的な治療法を模索している。研究者が病気のメカニズムを解明し、臨床医が薬の効果を検証し、企業が社会に実装していく。瀬戸氏の挑戦はこれからも続いていく。