採択者の声

2024年12月公募第67回リバネス研究費

第67回 京セラ賞 募集テーマはこちら

信州大学 繊維学部 機械・ロボット学科 バイオエンジニアリングコース 准教授

照月 大悟さん

採択テーマ
災害時の要救助者探査に向けた腕装着型匂いセンサの開発

昆虫の嗅覚を災害現場での人命救助に活かす

災害時の人命救助において、目視以外の手段で有用な探索技術が切に求められている。信州大学の照月氏は、昆虫の触角をセンサ素子とする匂い源探索デバイスを開発することで、現場での要救助者の探索に役立てたいと研究を進めている。

匂い源探索技術の社会実装を目指して

超高感度に匂い分子を検出する昆虫の嗅覚に着目し、その触角部分をセンサ素子とする、匂いセンサの開発と、それを小型ドローンに搭載したバイオハイブリッドドローンによる匂い源探索の実験検証を繰り返してきた照月氏。気流が乱れるドローンを用いて匂い源の方向や位置を特定するのは容易ではない。照月氏は、センサを覆う角錐台筒状のカバーを設置することで、筒の片側からのみ空気を取り込み、ドローンのプロペラによる気流に影響されずに、センサの方向感知能力を高めることに成功した。また、昆虫の匂い源探索行動にヒントを得て、ドローンが一時停止を挟みながら回転し、その間に得たセンサ情報から匂い源方向を推定して移動する、という行動の繰り返しで匂い源に近づくアルゴリズムが有効であることを示した。その結果、匂い源探索距離をこれまでの2mから、5mという、小型ドローンの世界最長距離にまで延ばすことに成功したのだ。これらの成果は、照月氏が災害現場での要救助者探査に、この匂い源探索技術を活用できないかと本気で考えるきっかけとなった。

災害応用を「神話」で終わらせない

匂いセンサの災害時応用は、基礎研究の中では20年以上その可能性が語られてきたが、未だ事例のない、謂わば“神話”だった。照月氏は実際に現場でセンサが求められているのかを確かめるため、自ら自衛隊や消防など実際の被災現場で活動する組織および関係者へのインタビューを10件程度行ってきた。「(センサデバイスは)いらないと言われるのではと正直考えていました。しかし、面談した皆さんは口を揃えてその有用性と現場実装への期待を伝えてくれました」と良い意味で予想を覆す反応があったという。人命救助のためには災害発生から72時間以内に生存者を発見する必要があるが、既存技術には限界があり、目視や棒でつつくなど人力に頼る探索手段が取られている。この現状をふまえ、ドローンの利用にとどまらず、探索者自身が装着でき両手が自由に使える「腕装着型匂いセンサ」という方向性が新たに生まれた。

ヒト臭を特定する蚊の嗅覚の可能性

これまで匂いセンサ素子に利用していたカイコガの触角を応用し、腕装着型のウェアラブル装置の有効性を検証すると共に、照月氏は新たに蚊の触角に着目した。蚊は、ヒトの汗や体臭に含まれる1-オクテン-3-オールという揮発性有機化合物に強く誘引されるため、ヒト探索に有効なセンサ素子の候補となりうるのだ。既に研究室には、蚊の飼育用インキュベーターや、カイコガに比べてサイズの小さい蚊の触角に電極を接続するために必要な顕微鏡等のシステムが導入され、実験と検証が並行して進められている。本賞への申請は、募集要項にあった「防災や災害復興に関わる研究」に自身の研究との親和性を感じ、産業界との接続を期待したからという。照月氏の生体と機械のハイブリッド研究が、災害救助の課題を解決する日が待ち遠しい。