
2024年9月公募第66回リバネス研究費
第66回 プランテックス先端植物研究賞 募集テーマはこちら
京都大学大学院 農学研究科 特定助教
山森 晃一さん
- 採択テーマ
- 植物工場での栽培に適したコムギ品種育種に向けた基礎研究
遺伝学的手法の開発と応用を植物工場で加速する
農業では主に育種された作物が栽培されているが、分子生物学の研究から生まれた遺伝子に関わる技術が応用されることは少ない。そのような新しい技術を活用して品種改良をすべきだと考える山森氏は、実際に作物を栽培しながら、遺伝子を調整する技術の開発を目指して研究している。
分子生物学を活かした農学を目指す
京都大学でコムギの遺伝子の機能解析と育種への応用を研究する山森氏が、研究対象である遺伝子に興味を持ち始めたのは中学生の頃だ。正確に形質の遺伝が起こるメンデルの法則や、ATGCのたった4つの塩基で遺伝情報がコードされていることを知ると、緻密な仕組みに魅力を感じた。大学では、遺伝子を調節するバイオテクノロジーの研究に関心があり、作物への活用を目指して農学部へ進学した。研究は、野生イネを扱っている研究室を選択した。野生イネはストレス耐性や病害耐性を持っているが、これら遺伝子を特定できれば環境に適応した品種が作り出せると考えたからだ。しかし、育ててみると、育成品種と異なり、獲れるコメのサイズが小さいなど、食用に向かない特性を多数有していた。既存の品種と交雑を考えたが、当時の研究室の設備では行えず、テーマを変更することとなった。現在は、遺伝学が専門でありながら、作物の栽培もする那須田周平氏のもとで当時行いたかった研究に取り組んでいる。
想像が具体化した研究アイデア
今回のプランテックス先端植物研究賞へは、那須田氏が研究室に周知していたのを聞き申請を決めたという。「過去にも植物工場での研究を考えたことはありましたが、設備がなく断念しました」と山森氏。本研究費は、これまでできなかった研究ができる機会だと思い、飛びつくように応募した。申請にあたり、過去に研究室で行われていた研究でコムギを室内で栽培した時のデータや写真を確認したところ、設備が狭く、特に高さ方向の制約が収量に影響している可能性を疑った。これを解決するために、育種を行いコムギの背丈を低くすることで、植物工場内で栽培した際の収量を増加させられると考えた。
連携した先に見据える品種改良の未来
背丈の低いコムギができると、将来的には植物工場での生産につながる可能性があるが、それだけではなく、コムギの育種や、遺伝学の研究の加速にもつながる。山森氏は低温ストレスに耐性のあるイネの研究をしたことがあった。本来、イネは開花期の低温に当たると正常な花粉を生産できず受粉に失敗し、種子であるコメが稔らない。低温耐性の評価には開花期までに生じた生育のばらつきも影響するため、屋外での栽培では制御できない日のあたり具合や温度制御の違いによって正確な耐冷性の評価ができないことがあった。プランテックスの閉鎖型の植物工場は、精密な環境制御ができるため、イネの低温ストレス研究で直面したような課題をクリアし、形質と遺伝子の関係を明らかにできる。分子生物学のアプローチで栽培研究を進めようとする山森氏にとって、最高の設備だと言える。「植物工場で栽培することで正確に遺伝子の機能を調べられるので、将来的には育種の高速化につながる」と期待する。研究者とプランテックスの技術が掛け合わさることで、環境に適応した作物が広がる未来が来るのではないだろうか。 (文・八木 佐一郎)