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  • 第63回 プランテックス先端植物研究賞 採択者 多部田 弘光さん

2023年12月公募第63回リバネス研究費

第63回 プランテックス先端植物研究賞 募集テーマはこちら

理化学研究所 環境資源科学研究センター 基礎科学特別研究員

多部田 弘光さん

採択テーマ
高機能性アブラナ科植物の栽培を叶える代謝スイッチング技術の確立

基礎研究の発見を活かして高機能な植物を作り出す

植物は化学物質の影響を受けて形態や合成する成分を変化させる。植物の代謝研究を行なってきた理化学研究所の多部田氏は、植物の根の形態や機能性成分の合成量を変える物質を発見した。この発見とプランテックス社の環境制御技術とを組み合わせることで、これまで以上に機能性成分を増加させた植物を創出しようとしている。

代謝の研究から見つけた植物成分の新機能

薬などの物質は、一種類であっても生体内で生じる多くの化学反応を変化させる。多部田氏は植物研究の道に進んだきっかけを「植物は薬などの生理活性物質を生み出しています。そこではどのような物質の代謝が行われているのかに興味を持ちました」と話す。現在では、多くの反応がダイナミックに変化する器官形成における代謝をテーマに研究をしている。その中で注目したのが、器官形成時に合成量が増えるLAPA(L-2-Aminopimelic acid)という物質だ。このLAPAを植物に与えると、根がひげ根になり、人の健康に関わる有用代謝成分の合成が促進されることを明らかにした。LAPAはシダ植物の成分として50年前にすでに発見、研究されていたが、この時は抗菌活性しか調べられていなかった。多部田氏が植物の代謝に目を向けて取り組むことで、LAPAの新たな効果を発見できたのだ。「それぞれの研究には歴史があり、その一部にしか関われないかもしれないが、大切なことを一つずつ発見していくのが研究者として楽しい」と、研究を着実に進めることの面白さを語る。

研究費から広がった高機能植物作出の研究

そんな多部田氏が植物の機能性の向上という新たな研究に取り組むきっかけになったのが、プランテックス先端植物研究賞だ。ちょうどLAPAの代謝に対する効果が明らかになってきたタイミングで同賞を知ったという。従来は、基礎研究で扱いやすいシロイヌナズナなどのモデル植物しか対象にしてこなかった。ラボの環境では、与える養液の成分調整や、気温や水温の環境管理が難しく、植物を高機能化する栽培条件の検討といった応用研究を行えなかったためだ。しかし、副賞としての助成内容であるプランテックス社の植物工場とLAPAの効果を組み合わせることで、制御された環境下で高機能な植物を創出することができるのではないかと考え、そのテーマで申請した。研究費を通じてプランテックス社と連携できていなかったら、遺伝子発現の解析など、これまでと同様な基礎研究の範囲にとどまっていただろうと振り返る。

企業連携で見えた、基礎研究の実用化の道

元々、多部田氏は企業との連携による研究成果の実用化には興味を持っていた。しかし、連携できる可能性がある企業がどこなのか、また、どうすれば連携を通じて研究の実用化を進められるのか分からなかったという。そのような状況でプランテックス社の取り組みや想いを知ることができたことや、連携することでできる具体的な取り組みについて議論できたことは嬉しかったと語る。現在は、調整すべき環境要因の検討など、実用化に向けた研究を進めている。

「基礎研究として物質が植物に与える影響を調べることは面白い。加えて、その応用研究としての植物の機能性向上や、研究成果を活用して生み出した植物を量産して実用化を見通す良い機会を得られたことがよかった」と語る。本研究費から、基礎から実用までがつながる植物研究の第一歩が始まった。(文・八木 佐一郎)