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2023年9月公募第62回リバネス研究費

第62回 タカラベルモント ミモザ賞 募集テーマはこちら

九州大学 生物資源環境科学府 博士後期課程3年

山田 あずささん

採択テーマ
“毛包細胞の代謝促進能を有するヒト毛髪常在菌”がヘアカラーストレス下炎症性毛包細胞に及ぼす作用の解明

毛髪細菌を活用し、誰もが好きな髪色を楽しめる世界へ

腸内や皮膚と同様に、毛髪にも細菌叢が存在しているが、毛髪細菌が人に与える影響の研究はまだ始まったばかりだ。山田氏は、毛髪細菌が毛包細胞に与える影響を調べ、社会での活用につなげたいと考えている。

 

毛髪細菌は微生物研究のフロンティア

毛髪に皮膚などとは異なる細菌叢が存在することが明らかになったのは2017年だ。大好きな微生物研究で社会貢献をしたいと考えていた山田氏にとって、新規性が高く、身近で社会貢献につながるポテンシャルもあるこのテーマは魅力的だった。山田氏は、毛髪細菌が髪の成長点に近い毛包細胞に接触していることに着目し、毛髪細菌が毛包細胞に与える影響を調査した。その結果、Cutibacterium acnesやPseudomonas liniなどのいくつかの主要な毛髪細菌が、細胞代謝活性化、抗細胞老化、活性酸素種の削減に関わるSIRT1遺伝子の発現を高めることを発見した。毛髪細菌が髪や頭皮の健康に関わっている可能性が示されたのだ。

菌の作用が頭皮の健康を守る?

髪色を変えるヘアカラー剤は頭皮の炎症を引き起こすことがある。その炎症の有無には個人差があり、一度炎症を起こすとその後もカラーリングのたびに発症し、髪色を楽しめなくなる人も存在する。山田氏はこの問題に着目した。SIRT1によって削減する活性酸素種は細胞の炎症を引き起こす要因の1つだ。山田氏は、もしも、毛髪細菌を利用してカラーリングに用いる薬剤による毛包の炎症を抑えることができれば、多くの人が自由に髪色を楽しめるようになるのではないかと考えた。そこで、毛染め剤が引き起こす毛包細胞の炎症に対する効果を調査することにした。業務用ヘアカラー剤の成分情報は容易に手に入らないため、近隣の複数の美容室を訪ねてまわり成分情報を手にいれるなど、ヘアカラーの現状に即した研究を志している。

細菌の機能が自分らしい美の実現を助ける

山田氏は、カラーリング剤等の頭髪用化粧品にも知見を持つタカラベルモント社との出会いにより、よりリアルなカラーリング剤の情報を研究に生かせるのではと期待している。ゆくゆくは腸内細菌叢に対するヨーグルトのような、毛髪細菌叢の環境を整える製品を生み出せるかもしれない。「現在、毛髪細菌の研究は黎明期です。腸内細菌は人に対するさまざまな機能が見出されたからこそ、研究が発展しました。私はまずその機能を発見して、より多くの人に毛髪細菌に興味を持ってもらう基盤を作りたいと考えています」。今後は人と細菌の関係性に関する研究に知見が深い海外ラボへの留学などを通して、腸内細菌や皮膚常在菌研究で培われてきた手法を身につけ、毛髪細菌研究に生かしていきたいという。ヘアカラー等の美容行為は、それを行う人の心理に大きな影響を与えるものだ。始まったばかりの微生物研究が、誰もが健やかに自分らしい美を目指せる世界の基盤を作り出すかもしれない。(文・重永 美由希)