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2023年9月公募第62回リバネス研究費

第62回 タカラベルモント ミモザ賞 募集テーマはこちら

東北大学 生命科学研究科 助教

梶山 十和子さん

採択テーマ
小型魚類の種間比較による求愛行動の神経基盤の解明

美を表現する気持ちの源泉にメダカの脳から迫る

美を求める理由の一つに「異性に選ばれたい」という根源的な欲求がある。求愛行動を受けて異性を選ぶという反応は人間のみならず種を超えて存在する。この生物における根源的な反応の仕組みを、日本人には馴染み深いメダカを用いることで明らかにできるかもしれない。

求愛行動を引き起こす脳のはたらきに迫る

行動における性の違いは未だ謎が多い。求愛行動の性差を知るためには、脳の中でどのような反応が起こっているかを解明する必要がある。梶山氏はこの課題に対して魚を用いてアプローチをしてきた。研究対象である小型魚類は、大量飼育しやすく、世代交代も早いことから、脊椎動物に共通するメカニズムを解き明かすために広く利用されている。日本発のモデル生物とも呼べるメダカは、求愛時にはメスの周りをオスが回り込むように泳ぐ求愛円舞を行うことが知られており、その行動を元にメスがオスを選り好みしている。求愛行動の様式は魚種間で異なるが、求愛という共通する目的がある以上、その脳の反応には共通する部分と異なる部分が生まれるはずだと。そこで、小型魚類の求愛行動と、その際の脳での反応を異なる魚種で比較することで、魚類に共通する求愛行動の神経基盤を解明しようとしている。

行動した瞬間の脳内反応を可視化する

では、脳の中の反応をどのようにして観察するのか。その答えは「直接見る」だ。脳内で神経発火が起きた際に発現が増加する遺伝子を特定しており、神経活動マーカーとして利用できる状態にある。行動後の魚類の脳を薄くスライスして染色することで、脳のどの部位が反応したかを明らかにすることができるのだ。さらに、行動にどのような遺伝子が関わっているかを知るために使うのが、最近活用が広まってきたSingle-cell RNA seqをもとに確立された手法、行動後の1細胞ごとの遺伝発現を解析するAct-seqだ。梶山氏はこれらの手法をメダカやゼブラフィッシュ等複数の魚種ですでに行っており、今後脳の種間比較を行っていく予定だ。

種に共通のモテたい気持ちを解き明かす

タカラベルモントミモザ賞の募集そのものや審査のやり取りの過程で研究者として勇気づけられたと語る梶山氏。これまで企業との関わりはあまり多くなかったそうだが、「求愛行動にはすごくベーシックな、生物全体に共通する仕組みがある可能性があります。魚が求愛ダンスを踊る時と、人間が花束を送る時、同じようなニューロンが活動していたら面白い。美を扱っている企業さんと、生物がモテたい気持ちの源泉を探っていけると面白いかもしれません」と、応募が研究の意義を新たに捉え直すことにもつながったようだ。確かな技術と観察眼が、生物の根源的な感覚を解き明かす未来に期待したい。(文・重永 美由希)