採択者の声

2022年12月公募第59回リバネス研究費

第59回 ダイセル賞 募集テーマはこちら

帝京大学 医療技術学部 視能矯正学科 講師

広田 雅和さん

採択テーマ
瞳孔反応と眼球運動による個々人が好むファンデーションの伸びを予測する機械学習ソフトウェアの開発

眼球運動検査で培った知見を化粧品の感性評価に応用する

近視や弱視・斜視の視能矯正で身近にある眼科医療では、他の医療分野と比べても多くの測定が必要になる。現在は属人的な眼科検査をデジタル化する研究に取り組んできた帝京大学の広田雅和氏は今回、化粧品素材と眼球運動という意外な組み合わせから、人の感性に迫る新たな研究テーマを生み出した。

眼科検査のデジタル化から生まれたアイデア

眼科検査を行う専門職である「視能訓練士」は医療従事者の中の0.24%と非常に少なく、今後少子高齢化が進む中で人手不足がさらに進むと考えられている。眼光学を専門にして、大学で視能訓練士の育成も行っている広田氏は、これまでに眼球運動障害を持つ患者に対して、日常生活に近い環境化での眼球運動を定量的に計測する自動解析システムや障害部位推定プログラムの開発に取り組んできた。属人的な眼科検査を少しでもデジタル化することで、視能訓練士の省力化や時間コストの削減につなげるためだ。人間は自分の興味や関心の高いものに対して視線が集束したり、瞳孔が大きくなることが知られている。そこで、これまでの視能検査研究で培った技術を活用することで、眼球運動から化粧品の好みを定量的に評価することが出来るのではないかと発想したのだ。

定量的な眼球運動情報から定性的な好みを推測する

人は何か一点を見ようとする時でも、視点を固定することができず、視線はわずかに周期性を持って揺れ続けている。この微細な動きは固視微動と呼ばれ、その揺れの方向は無意識に関心があるものや好みのものの方に偏ることがすでに報告されていた。今回の研究では、瞳孔の大きさの変化や視線の滞留時間に加えて、この固視微動の変化を被験者の関心が向いているものを推測する評価軸に取り入れようと取り組んだ。広田氏は、50〜100 μmの微弱な振幅の固視微動を捉えるため、1秒間に1200枚もの画像データを取得できるアイトラッカーを用い、画像解析などを組み合わせた独自のデータ処理方法を構築した。それにより、これまで計測が難しかった固視微動を評価軸として活用できるようになったのだ。今後はこの手法を用いて取得した定量的な眼球運動のデータから、化粧品の伸びや感触などの好みを推測するシステムの開発を進めていく予定だ。

異分野研究から視能訓練士の可能性を拓く

普段広田氏が接している視能訓練士を目指す学生達にとって、研究開発は縁遠いものだ。だからこそ、学生達にとって身 近な化粧品素材と自身の専門である眼科領域の知見をかけあわせた研究テーマを推進することで、眼科領域の学びからも研究テーマが生まれ、社会とも結びついた研究開発ができる事を伝えたいという。今後は、感触にこだわって開発されたダイセルの化粧品素材も評価していきたいと語る広田氏。ダイセル社も、本研究を化粧品素材や製品の感性評価に定量性のある新しい指標をもたらすものとして期待している。自分の好みなどの感性を正確に言語化するのは難しいものだが、眼科領域の知見からもたらされた新たな感性評価手法が、自分にあったベストな製品に簡単に出会える世界を実現していくかもしれない。

(文・正田亜海)