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2022年6月公募第57回リバネス研究費

第57回リバネス研究費 ダスキン開発研究所賞 募集テーマはこちら

東京農工大学大学院工学研究院 応用化学専攻 特任助教

内田 紀之さん

採択テーマ
ウイルスなどの巨大生体高分子を高効率で取り込む膜変形リポソームの開発

二分子膜の構造制御技術で、ウイルス除去に挑む

リン脂質を用いた超分子集合体の構造制御と機能化に取り組む東京農工大学の内田紀之氏。難易度の高い研究課題に挑戦し続けると同時に、研究成果を応用した新規ウイルス除去剤の開発に挑戦する。

▲リポソームの二分子膜が変形し、ウイルスを内包する様子。

 

難しいからこそ発見がある

学生の頃から化学と生命に関心のあった内田氏は、学部では抗がん剤の合成を学び、大学院から薬剤送達システム等に使われる、現在の超分子化学の研究に携わり始めた。内田氏の研究は、リン脂質などの両極性分子の自己組織化でできる超分子集合体の構造制御と機能化だ。難しいとされる、二分子膜からなるシート構造の合成に敢えて取り組むなど、実現が困難なことへの挑戦が新しい発見につながる、というのが内田氏の研究姿勢だ。その中で、光刺激でシート構造に混ぜた人工分子を局在化させ、構造の一部を不安定させることで外部の溶液を取り込む膜変形を誘導する方法を見つけるなど、新たな発見を重ねてきた。

 

基礎研究と実用化の二軸を持つ

研究で成果を上げる一方で、「これは本当に使えるのか?」という疑問も生まれた。「研究の新規性と同時にその実用性も意識するようになりました」と話す内田氏。実用化を考えた際の超分子の強みは、他の材料では難しい大きな分子を内部に取り込めることだ。実用化に向けて、まずは企業からの反応を知りたいと考えた内田氏は、これまでリバネス研究費にも複数回申請してきた。例えば、食品メーカーが設置する賞ならば機能性食品素材であるポリフェノール類を内包させたナノシートを提案するなど、どのようなものを内包できれば企業が関心を持つのか、試行錯誤を重ねた。

 

新しい除去剤で衛生環境に貢献する

本賞で、ダスキン開発研究所が提示したテーマは「『衛生環境を整える』あらゆる研究」だ。昨今関心が集まるウイルスは、分子として捉えると、まさに超分子が内包するのに得意とする大きな生体分子だ。内田氏は直近の研究で、ウイルスをリポソームに内包させ、しかも不活化できることを見出した。リポソームを使った新たなウイルス除去剤で衛生環境を整えるのに貢献できるのではないか。その仮説をもとに本賞に申請をして、今回の採択に至った。「学術的にインパクトのある成果を、論文にするだけでなく、実用化させたい」と語る内田氏。アカデミアで生まれたユニークな研究成果から、ダスキン社との連携を経て新しい技術や商品が生まれてくることを期待したい。(文・戸上純)

 

担当研究員からひとこと

株式会社ダスキン 基礎研究室 細野 貴行 氏

ウイルスを内包することによる無毒化(不活化)という内田先生のアプローチの実現は新規の抗ウイルス技術になると考えております。実用化に向けて従来の抗ウイルス素材と差別化し、「衛生環境を整える」中で新しい価値の提供を目指します。