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2022年3月公募第56回リバネス研究費

第56回リバネス研究費 興和 リチウム賞 募集テーマはこちら

芝浦工業大学大学院 応用化学専攻 修士1年

福士 英里香さん

採択テーマ
水素化物固体電解質の薄膜合成およびそれらを利用した次世代電池の開発

世界初の電池開発に向けた新たな一歩

「博士後期課程の進学も見据え、自由に使える研究費を探していたときにちょうど見つけた研究費が興和リチウム賞だったんです」と語る修士1年の福士氏。申請書作成や興和社員との議論を通じて手に入れたものは、当初想定もしていなかったものだった。

新しい作動原理を持つ新電池の開発

近年、電気自動車や再生可能エネルギーの急速な普及、またウェアラブルデバイスを始めとした小型デバイスの浸透を反映して、大小様々な高性能電池の必要性が急速に高まっている。そのため、現在普及しているリチウム二次電池や燃料電池を超える次世代電池の開発も期待されている。そのような中で、福士氏はヒドリド (H) 系新型電池に着目している。この電池は、ヒドリド (H) が電荷担体として、電解質を通り、 電極間を移動する仕組みである。理論上、起電力は従来型燃料電池の約2倍の2.3 V程度になることが期待できる。ヒドリド (H) の伝導は2014年に見つかったばかりの現象であり、 電池を構成する電極・電解質材料の研究も途上であるため、未だ電池への応用報告はない。それだけに予想を超えた新規電池の出現につながる可能性があるのだ。

薄膜合成の面白さに惹きつけられる

福士氏はヒドリド系新電池の開発に向けて、正極と負極の間でヒドリド (H) の輸送を担う固体電解質「水素化物ペロブスカイトBaLiH3 」の薄膜を作成している。薄膜材料は電池の小型化につながるだけでなく、電解質と電極の界面をきれいに観察できるため、そこで起きる化学現象をより深く理解することを可能にする。ただし、今回扱う水素化物は非常に不安定な物質であり、大気の水分とすぐに反応したり、熱にも敏感である。福士氏は半年の間に、100回以上も実験を行い、試行錯誤を繰り返したという。そしてこのプロセスは、 世界初のBaLiH3の薄膜を作り出すことの成功に加え、原子層の精密な制御によって機能性材料を生み出せるという薄膜合成の面白さに福士氏自身が気づく機会につながった。今後は興和リチウム賞の研究費を活用して、BaLiH3の結晶構造 中のBaサイトやLiサイトを、それらの元素とイオン半径の近いK+やLa3+やMg2+などの異価元素に置換した薄膜合成にチャレンジし、イオン伝導性の向上を目指していく。

視野を広げ、自分に足りないものを知る

リチウム資源を取り扱う興和では、リチウムを用いた次世代電池に関する知見を増やすとともに、電池研究者とのネットワークを構築していくことを目指している。提案のあった電池は、今後の市場性などは全くの未知数ではあるが、その挑戦的な要素に加え、人としての魅力を感じ、今回の採択が決まった。「これまでは目の前の研究で一杯一杯でした。ですが、電池を世に出すことを考えたときに、まだまだ足りないことは多くて、電池自体に関する深い理解や異分野の人たちとの連携の必要性を感じる機会になりました」と福士氏。今後は電池の研究開発に関わる大学・企業の研究者が集まる電池討論会などにも足を運ぶ予定だ。今回の申請は、新電池を世に出していくという目標に向けて、興和という仲間に加え、これから踏み出す新しい一歩目を見つける機会となった。

(文・中島翔太)