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2022年6月公募第57回リバネス研究費

第57回リバネス研究費 鈴茂器工賞 募集テーマはこちら

宇都宮大学 農学部 助教

田村 匡嗣さん

採択テーマ
良食味水稲品種「ゆうだい21」の食味解析:産地および粒厚が含有成分、物性および糖質消化性に与える影響

産学連携で拓く、世界中に「おいしいご飯」が届く未来

日本を代表する食材「米」。1990年代までは日本が世界の米飯に関する研究を牽引してきたが、今では国内の研究者が減り、論文数で海外に押され気味だという。一方、生産から加工、保存、調理までのバリューチェーンで「おいしさ」を構成する諸工程では、きめ細やかに創意工夫ができる日本の力は強い。「産業側の視野を取り入れられれば、米飯の研究はもっと面白くなる」と田村氏は語る。

大学が生んだ米「ゆうだい2 1 」との出会い

大学院時代から、炊飯中の温度と米粒の硬さの関係、組織や細胞の構造、炊飯中に溶け出たデンプンが食味に与える影響など米飯の研究をしてきた田村氏。2014年の宇都宮大学着任の際に出会ったのが、国立大学で初めてイネの新品種として登録された「ゆうだい21 」だった。冷めてもおいしい特徴があるこの品種は当時、大手コンビニのお弁当やおにぎりに採用されたり、米・食味分析鑑定コンクールで金賞を受賞したりするなど、注目が高まっていた。「実際に食べてみておいしかったことで、研究を始めるきっかけになりました」と田村氏。最近では健康面にも着目し、大麦や果物に比べて食後の血糖値上昇指標(GI※1 )が高い米について、品種や炊飯方法によってどのように変動するか、独自開発のIn vitro模擬消化試験で研究している。
※1 食後血糖値の上昇を示す指標。グライセミック・インデックス(Glycemic Index)の略

「粒厚の小ささ」の価値を再評価する

ゆうだい21の粒厚は、他の品種と比較すると小さい。粒厚が小さいと、一般に雑味の元となるタンパク質含有率は相対的に増加し、逆に食味の肝となる「 粘り」に関与するアミロース含有率は低下すると言われている。そのため、食味が悪くなり屑米として破棄される理由となる。しかし、炊飯直後のゆうだい21の米飯粒は、粘りが有名ブランドのコシヒカリの5倍以上であることが明らかになっている。また、他品種と比べて糖質消化性が有意に低いため、食べた後の血糖値上昇も緩やかだ。田村氏は、これらの特性を生み出しているファクターのひとつが、粒厚だと考えている。今回採択された研究テーマでは、粒厚が小さくてもおいしいと評価されるゆうだい21の食味や糖質消化性と、粒厚との関連を明らかにするのが目的だ。一方で、米飯のおいしさを追求する上で魅力的にも思えるゆうだい21は、比較的栽培に手間がかかる品種のため、取り組む農家が増えづらいという課題がある。「粒厚との関係が明らかになれば、調理・加工方法の改良や栽培が容易な品種への改良にもつながるかもしれない」と田村氏は期待している。

世界展開を見据えた連携可能性

本賞を設置した鈴茂器工株式会社は、世界トップシェアを誇るオリジナル寿司ロボットメーカーだ。2022 年よりさらなる味や品質、価値の向上を目指すべく、炊飯に関わるバリューチェーン全体を科学的に明らかにする「おいしいご飯研究所」を立ち上げた。この取り組みに対して田村氏は「生産や流通まで網羅的に考える視点は、大学研究者には乏しい。研究成果の社会実装を考える上でこの考え方は私たち研究者にとっても必要だ」と、強く関心を示した。今回の受賞を機に、田村氏の研究成果が鈴茂器工の商流に乗って世界に広がる日が待ち遠しい。(文・伊地知 聡)