採択者の声

2021年6月公募第53回リバネス研究費

第53回リバネス研究費 L-RAD賞 募集テーマはこちら

追手門学院大学 心理学部 特任助教

白砂 大さん

採択テーマ
知識の多寡から生じる不確実性下における判断方略の使用に関する認知科学的研究

ヒューリスティックスに魅せられて認知心理学研究者の道へ

 

人の意思決定において、持ち合わせている知識が多いとき、または少ないときにどのような方法で物事を選択するのか。十分に知識があれば難なく選択できるだろう。逆に知識を持っていないときは自身の経験や直感を頼りに決めるかもしれない。このように知識量にあわせてどのような思考方法を用いて意思決定を行うのかを解明しようと取り組んでいるのが追手門学院大学の白砂さんだ。

 

「クイズが好き」が出発点

幼い頃からクイズが好きだったという白砂さん。クイズに答えるときに人がどのように物事を考えているのかに関心をもったという。答えがわからない設問であっても何かしらの方法で回答を選ぶ回答者の頭の中で何が起こっているのだろうか。このような疑問が、白砂さんの進路に大きく影響した。そして、人がこれまでの経験や先入観から直感的に物事を選択する「ヒューリスティック」と呼ばれる思考方法に強い関心をもち、研究の道へ進んだ。「直感的な判断は誤った選択をしたときに注目されがちですが、意外にうまいこと正解を選べていて、その点についても研究が進んでいるんです」と白砂さんは語る。

 

知識の多寡がもたらす思考の不確実性

ヒューリスティックの研究をしていると行動実験に参加した被験者がヒューリスティックではなく、知識を用いて意思決定したのではないかと反論されることがある。そこで白砂さんは、知識の多寡によってヒューリスティックで判断していることが示せないかと考えた。日常では、十分な知識がなくて判断に迷うこともあれば、知識があることでより確実に判断できることもある。それでは多少の知識はあるけども確実な判断を行えるほどではない場合はどのように意思決定をするだろうか? このように知識の多寡によって生じる不確実性を伴う状況下での意思決定において、どのような考え方が有用で、保有する知識にあわせてどのように考え方を使い分けているのかはわかっていなかった。そこで白砂さんは、行動実験を行ってその結果をもとにモデルを構築し、シミュレーションを用いて知識の多寡によって変化する人々の思考方法について検証を行うことにした。

 

人間らしい意思決定に迫る

行動実験で用意した設問にも工夫が施されている。通常は選択肢にオブジェクトを設置し、選択肢間の比較によって選択が行われる。しかし、白砂さんは設問文にもオブジェクトを設置することで、設問文と選択肢の関係性を比較できるようにし、より知識の有無を検証できる実験手法を構築した。「知識が足りない状態だと、選択肢間を比較するという課題であれば、単に馴染み深い方を選びやすいとされていました。一方、設問文にもオブジェクトがある場合、設問文中のオブジェクトの馴染み深さに、より似た馴染み深さを持つ選択肢を選びやすいことがわかってきました」と白砂さん。今後は知識がある状態でどのような思考方法を用いて判断するのかをモデルを組んで検証を進める予定だ。回答にかかる時間、周辺知識の量や範囲から、回答者が知識や直感にどれくらい頼っているかを推定できるかもしれない。人が状況に合わせてどのように思考方法を選択しているのか、人の意思決定への理解を深めることで、より人間らしいAIや応答システムの開発につながっていくだろう。(文・仲栄真礁)