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2021年6月公募第53回リバネス研究費

第53回リバネス研究費 ニッスイ賞 募集テーマはこちら

静岡県立大学 薬食生命科学総合学府 修士2年

尾城 一恵さん

採択テーマ
ヒト味覚・嗅覚受容体の網羅的解析による高感度な“おいしさ可視化技術”の開発

受容体を用いて おいしさを高感度で可視化する

おいしいものを作ることに従事したいと考えていた尾城氏は、おいしさを創る味と香りの分子機能解析に取り組む研究室に所属する学生だ。主観的に捉えられている“おいしさ”をいかにして再現可能な数値にしていくか、そのアイデアと目指す先について伺った。

従来とは違うおいしさの可視化方法を探る

ヒトの味覚・嗅覚受容体は、言わば味と匂いのセンサーだ。これら全 450 種のセンサーは、味や匂いの化学物質に反応して様々な活性化パターンを示す。尾城氏が取り組むのは、その活性化パターンを網羅的に解析することで、ヒトが食品を食べた時に感じる“おいしさ”を客観的なデータに落とし込もうという、世界に先駆けた研究だ。これまで、培養細胞の膜表面に受容体を発現させ、蛍光標識により受容体の反応を可視化するシステムを開発してきた。し かし、受容体反応の検出感度の低さが課題となっていた。そこで、受容体を発現させる培養細胞に着目。今回の採択テーマでは、受容体が発現してから、味・匂い物質に応答し、細胞内シグナルが検出されるまでの各ステップを一つずつ最適化し、世界最高感度のおいしさ可視化技術を開発する。

“おいしさ”を明らかにするために飛び込む

もともと食べることが好きだという尾城氏は、食品自体の研究によりおいしさを追求するべく農学部に進学し、りんご品種の調理特性に関する研究を行っていた。そんな学部時代にチャールズ・スペンス氏の著書『「 おいしさ 」の錯覚 』に出会う。ヒトの感じる “ おいしさ ” を探求することでおいしい食をつくる道があるということに気づき、強く興味を惹かれた。日本全国の研究室を探し、嗅覚と味覚の両面から食品を研究している現在の研究室に進学を決めた。
「 主観的で曖昧な “ おいしさ ” を数値化できるということは、色々な可能性を秘めていると思うんです 」と話す尾城氏は、味や匂いを自在に再現できたり、時空を超えて保存できる未来を思い描く。

社会のニーズに応えるアイデアにする

ニッスイ賞への応募を後押ししたのは、「 ぜひ斬新なアイデアを投げてほしい 」という実施企業インタビュー記事のメッセージだ。確実に成果が出そうかではなくアイデアを評価してくれるのではないかと感じたという。企業と議論することで、大学にいると掴みにくい社会のニーズや技術の利用面での新しい視点を得られることにも期待を寄せる。「 この技術を実装すれば、味や匂いを思い通りにデザインできるので、昆虫食や培養肉が抱えている味や香りといった課題の解決の一助になるかもしれません 」。おいしさの可視化技術確立に向けた尾城氏の挑戦に注目したい。

(文・滝野 翔大)