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2021年9月公募第54回リバネス研究費

第54回リバネス研究費 東洋紡 高分子科学賞 募集テーマはこちら

名古屋大学 大学院工学研究科 物質科学専攻 助教

土肥 侑也さん

採択テーマ
単分散二次元シート状高分子の調製とキャラクタリゼーション

二次元分子構造が示す物性の法則を解き明かしたい

本公募を見て「やっと自分のテーマでも申請できる!」と歓喜したという土肥氏。二次元シート状高分子といえば、特殊な熱、電気、磁気特性で知られるグラフェンが著名だが、それ以外の研究は非常に少ない。今回の、未知の可能性をもつシート状高分子の「構造と物性の相関解明」は、まさに本賞が支援したいテーマだった。

古くて新しい二次元シート状高分子研究

シート状高分子の研究報告として、古くは界面・表面を利用した重合法 (T.Kunitake、1991)、最近では多孔性金属錯体 (MOF) を鋳型とするポリスチレンの平面重合 (N. Hosono、2020) などがある。いずれも複雑なモノマー種を使用することや、得られた試料の分子特性評価が不十分であったり、試料のサイズ・形状の分布が幅広いため、構造と物性の相関を解き明かすには至っていない。

土肥氏は、1965年にA. Blumsteinが、モンモリロナイト (MMT) が持つ平坦な面に挟むような形で、メチルメタクリレート (MMA) を入れることで、10~100 nm程度の幅の二次元シート状高分子が重合できるという報告に着目した。MMAという汎用モノマーから作り、サイズ・形状をふるい分けることで、均一な単分散シート状高分子の調製ができるからだ。

2種類のHPLCで使い分ける

合成したポリメチルメタクリレート (PMMA) は、サイズだけでなく構造にもばらつきがある。そこで 1965年になく、 現代にある高度で多様な抽出技術に着目。サイズ排除クロマトグラフィーと、その後相互作用クロマトグラフィーを使うことにした。さらに、原子間力顕微鏡 (AFM) を用いることで、一次元ではなく二次元であればシート状高分子の分子形状の直接観察・評価が可能なのだ。実際、AFMで未精製のシート状高分子を直接観察することに成功している。

基礎物性の解明で連携していきたい

「実験はこれからですが、対象高分子の精製が進んだ後、肝心の物性測定には様々な装置が必要になってきます。当研 究室にないものは連携先研究室や外部の施設をお借りすることになります。東洋紡さまには、『当社にある装置ならぜひ使ってください』と心強いお言葉をいただきました。まずはそこから連携できればと思っています」。従来の“ヒモ状” 高分子の概念を超えるシート状高分子の基礎物性の解明ができれば、未知の材料創出にも繋がる。また平面なので、何かを包み込むといったような新たな超分子的包接手法なども生まれるかもしれない。本研究が生み出す、高分子科学の拡張が楽しみだ。

(文・伊地知 総)