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  • 第54回リバネス研究費 東洋紡 高分子科学賞 採択者 大山 裕也さん

2021年9月公募第54回リバネス研究費

第54回リバネス研究費 東洋紡 高分子科学賞 募集テーマはこちら

慶應義塾大学 大学院理工学研究科 前期博士課程2年

大山 裕也さん

採択テーマ
使用用途に応じて自由に機能性を付与できる生分解性ポリマーの合成とその高強度化

次世代型生分解性ポリマーで材料開発の基盤をつくる

当初、医療の課題解決に向けた「生分解性とX線視認性を有する材料開発」が目的だったという大山氏。研究を進める中で、材料の高機能化をもたらす“官能基含有率の向上”が持つ、広大な可能性に気付いたと言う。「今は全く新しい材料基盤としての可能性にワクワクしています」と大山氏は語る。

歴史を踏まえた、材料開発のこだわり

ポリ乳酸をはじめとした生分解性ポリマー、すなわちポリエステルには官能基が無く、バイオマテリアルとしての高機能化に制限があった。過去の研究ではカルボン酸やアミノ基、ヒドロキシ基を持ったポリエステルが報告されているが、多くの機能性分子を結合するために官能基含有率を高めるとポリマーの分子量が下がるというトレードオフ関係が課題となっていた。また、合成手法に着目する研究が多く、その機械的特性を追求した研究も少ない。「官能基含有率や分子量が十分でないと、高機能化に向けた応用研究に発展しづらくなります。私の研究ではそれらの課題の解決に加え、自身の工学的な知見を生かしてポリマーの機械物性までこだわりたいと考えています」と言う大山氏。今回、生分解性を有する材料としてはメジャーなポリエステルに対して、その官能基含有率、分子量および機械物性の向上に挑んだ。

世界初、官能基含有率75%以上のポリエステル

大山氏が具体的に目指すのは、アミノ基含有率100 mol%、分子量 100,000 g/mol、常温での固形化が可能なポリエステルである。予備実験の結果、自然界に多く存在するジカルボン酸とジオールをモノマーとして選択し、反応選択性の高い酵素触媒や結晶化セグメントを用いたポリマー連結を駆使することで、アミノ基含有率 75 mol%、分子量 50,000 g/mol、常温での固形化が確認されている。今後、さらなる実験を行うことで、目標値を達成していく。

誰もが参照できる基盤材料を目指して

今回作製するポリマーは、“さまざまな機能を自由に付与できる”というコンセプトの通り、研究室レベルで多くの方に使ってもらいたいと考えている大山氏。また、このポリマーはバイオマスを原料とした親水性材料のため、おむつの吸水材などのエコマテリアルとしての応用も考えられるという。「個々人が簡便に参照できることに加え、産業化を見据えた際のコスト意識など、企業の方々が得意とする方面での意見を仰ぎたいです。決して机上の空論ではない高機能材料が目標です」と目を輝かせて語る大山氏の、今後の進展に期待したい。

(文・伊地知 聡)