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2021.09.08 お知らせリバネス研究アワード

リバネス研究アワード2021 受賞講演レポート|広視野高速2光子顕微鏡による in vivo ネットワーク活動の可視化(村山 正宜氏)

リバネス研究アワード2021
[先端研究推進部門]

〈受賞者〉
国立研究開発法人理化学研究所
脳神経科学研究センター
触知覚生理学研究チーム
チームリーダー
村山 正宜 氏

受賞タイトル「広視野高速2光子顕微鏡による in vivo ネットワーク活動の可視化」

受賞講演「レアモノハンター」

触知覚、いわゆる皮膚感覚の脳内メカニズムの研究で、これまでめざましい研究成果を上げてきた村山氏。最近では、複数の脳領域を一度に観察できる顕微鏡を開発し、講演のタイトルにある“レアモノハンター”を目指すという。

脳におけるレアモノを見つけ出せ

そもそも“レアモノ”とは何でしょうか。脳において、多数の神経細胞と協働的に活動する神経細胞のことを僕はそう呼んでいます。一般的にはハブ細胞とも呼ばれます。例えば空路ネットワークにおいて、他の空港と多数つながるハブ空港と、そうでない空港があります。ごく少数だけれど、ハブとなる空港の機能が停止すると、たちまち空路ネットワークが分断されてしまいます。このようにハブはネットワーク活動に重要な役割を果たしています。同じように、脳の中にもハブ細胞が少数存在し脳機能に寄与している、という仮説がありました。これを証明するには、まずはハブ細胞が脳に存在することを証明し、次に、その細胞活動と脳機能との因果関係を解明する必要があります。しかし、既存の顕微鏡では視野が狭く、200個程度の細胞活動しか観察できないので、ハブ細胞を見つけることは今まで困難でした。

1万6000個の神経細胞のきらめきの先に

そこで、観察視野を大幅に拡大した顕微鏡を作ろうと考えました。世にない物は自分で作るのが僕のスタンスです。ニコン、FOVとの共同研究で作ったのが、重さ4.2kg、直径8.4cmもある非常に大きな対物レンズです。また、浜松ホトニクスに依頼して、非常に大きな受光面を持つ高感度な検出器も作りました。これらを併せて巨大な顕微鏡を構築し、観察視野を実に36倍に広げました。こうして、生きた、しかも覚醒しているネズミの15以上の脳領域から、同時に1万6000個以上の神経細胞の活動を高速に記録することに成功しました※。きれいだと思いませんか。実際、我々の脳ではこのように神経細胞が活動しているんです。この中にはきっとハブ細胞がいて、神経ネットワーク活動の効率を上げている。これまで誰も検証できなかった仮説を、今後、実証していくつもりです。ハブ細胞が存在するならば、その細胞をハブたらしめる形態的・遺伝的な特徴が必ずあるはずです。将来の夢ですが、これら特徴を見出すことで、脳機能発現の謎や、精神疾患の発症・予防・回復メカニズムの解明へ波及し、それが最終的には人類の幸福につながるのではないかと思っています。

(構成・塚越 光)

プロフィール

新聞配達員を経て1997年に東京薬科大学生命科学部に入学。2006年に同大学大学院で博士号取得。2010年までベルン大学にて博士研究員。同年、理化学研究所脳神経科学研究センターで研究室を主宰。2018年からは東京大学大学院医学系研究科で連携教授を併任。日本神経科学学会奨励賞、日本生理学会奨励賞、文部科学大臣表彰若手科学者賞、日本医療研究開発大賞AMED理事長賞等を受賞。第2回リバネス研究費リバネス賞(2010年)を受賞。