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リバネス研究アワード2021 受賞講演レポート|細胞技術実用化を目指したベンチャー創出と社会実装(南 一成氏)

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南 一成 氏
南 一成 氏

リバネス研究アワード2021
[社会実装部門]

〈受賞者〉
株式会社マイオリッジ 取締役CTO
南 一成 氏

受賞講演「細胞技術実用化を目指したベンチャー創出と社会実装」

今や、再生医療や創薬研究分野で欠かせない存在となっているiPS細胞。南氏は、iPS細胞から分化させた心筋細胞を低コストで大量に製造できる画期的な技術を開発し、その社会実装を目指した取り組みを行っている。

iPS細胞由来心筋細胞の低コスト生産を目指す

私が感じるiPS細胞のすごさは、培養で大量に生産でき、かつそれぞれが色々な細胞に分化できる万能性を維持し続けられる点です。これはつまり、培地を無限に供給できれば、3か月間の培養で、理論上は地球の質量約100個分のiPS細胞を、あらゆる人から作り出すことができ、それを利用して組織、臓器を生み出すことができるということです。この細胞の応用先として、私が一番注目しているのが心筋細胞です。心筋細胞は、基本的には、私たちの心臓から取り出して増やすことができませんので、iPS細胞などからの分化誘導が必要です。こうした心筋細胞を大量生産し、現在世界の死因の一位でもある心疾患に対する治療に役立てたい。そのために一番の課題となってくるのが製造コストです。現在の細胞は非常に高価で、例えば1g単位にすると約1000万円、心臓1個分に換算すると30億円ほどかかる試算になるため、このままでは治療への適用は現実的ではありません。

細胞培養技術で再生医療の実現へ

こうした課題を解決するため、我々が取り組んだのは、細胞の分化に必須な培地中の成分である、サイトカインや成長因子などのタンパク質の代替となる化合物の探索です。従来、このタンパク質を作るには目的細胞とは別の培養細胞(大腸菌やCHO細胞など)に生産させることが必要でした。つまり、人間はこれまで細胞の力を借りてしか、細胞の生産ができなかったんです。そこで私たちは、スクリーニングの結果、アミノ酸や低分子化合物など、人工的に合成可能な化合物のみを使って、iPS細胞を心筋細胞に分化させることに成功しました。部分的にではありますがある意味、細胞の力を使わずに、人の力だけで細胞を生産することに成功した初めての例と言えます。必要な化合物を工場で大量生産すれば、培地のコストが下がり、細胞の原価も下がり、心臓一個分が3000万円、300万円と現実的な価格になっていくはずです。

培地の低コスト化に成功した私たちは、2016年に株式会社マイオリッジを牧田社長とともに立ち上げて、この技術を世界に広めていくための事業に取り組んでいます。現在は企業と連携して、細胞培養用の培地生成に必要な化合物の組み合わせを、AIを用いて自動探索できるシステムを開発しています。再生医療の課題として一番にあげられる“製造コストの低コスト化”を実現するため、これからも研究開発を続けて行きます。

(構成・井上剛史)

プロフィール

京都大学での研究成果を基にマイオリッジ社を設立し、独自のiPS由来心筋細胞製造技術を始め、様々な細胞技術を用いて再生医療への貢献を目指す。製造コストや細胞機能性の向上、臓器組織化といった、業界が直面している共通課題と向き合い、装置メーカーや基材・化学品・製薬メーカー等、国内外の細胞製品開発企業と共同して、製造プロセスの自動化や培地開発といった細胞製品に必要なインフラ技術の発展と社会実装に取り組んでいる。第23回リバネス研究費レボックス賞(2014年)、第27回リバネス研究費池田理化賞(2015年)を受賞。

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