幹細胞およびその他の細胞を用いたヒト臨床を伴わない研究
具体的には、再生医療の基盤を構築する上で必要な研究 (分子細胞生物学、細胞生物学、発生工学、組織工学、材料工学等)、創薬技術への利用等の応用研究の他、ここにない新規のアイデアも対象とします。
設置企業・組織 | 株式会社池田理化 |
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設置概要 | 本賞採択件数:若干名 奨励賞採択件数:若干名 |
スケジュール | 応募締切:2021年4月30日(金)18:00まで 審査結果:2021年7月または8月ごろに書類審査結果をご連絡予定 |
募集対象 | ・大学・研究機関に所属する40歳以下の研究者 ・海外に留学中の方でも申請可能 ・研究室に所属して研究を始めていれば、学部生からでも申請可能 |
- 担当者より一言
- 新型感染症によって研究の現場も大きな変化を強いられた2020年度。生命活動を取り扱うライフサイエンスは特に困難な状況にあったと考えられます。 このような時こそ独創的な研究を後押ししたい!その想いから今年度も池田理化賞を実施します。 募集対象は臨床研究を伴わない、再生医療(細胞治療、遺伝子治療、組織再生)や創薬応用にかかわる研究とします。 奮ってのご応募をお待ちしております。
設置企業インタビュー記事
ニューノーマル時代における池田理化再生医療研究奨励賞の次なる挑戦
株式会社池田理化がリバネス研究費再生医療研究奨励賞を開始してから、今回の募集で8回目となる。同じ企業からの募集回数としては最多だ。この7年間、理化学機器の商社として若手研究者とどのように関わっていけるか、試行錯誤の期間でもあった。これまでを振り返りつつ、新たな挑戦について紹介する。
将来分野を牽引する研究者に機会を作る
リバネス研究費池田理化再生医療研究奨励賞(以下、池田理化賞)は、現在の株式会社池田理化(以下、池田理化)の社長である高橋秀雄氏が若手研究者が自分のアイデアを試してみる機会を作ることで、研究現場の活性化につなげたいという想いから始まった。以来、これまでに 37 名の研究者を採択してきた。ここまで続けてこられたのは、「科学技術の発展を支援する事業を通して社会に貢献します」という池田理化の企業理念の現れだと言えるだろう。研究費の名称に再生医療研究とついてはいるが、これまでの採択者の研究テーマは発生・分化や幹細胞、細胞工学、合成生物学、遺伝子治療や免疫細胞療法の基礎研究など、かなり多様な内容になっている。申請で集まってくるテーマは年を重ねるごとに変化してきており、再生医療に関連する研究領域の広がりや、分野の中でどのようなことが定着してきているかを、研究費プロジェクトを推進する池田理化のメンバーが知る機会にもつながっている。アカデミアに対しての貢献だけでなく、自社の知識をアップデートしていく取り組みにもなっているのだ。
ユニークな集団の形成
池田理化賞は採択テーマが多様であること以外に、研究成果を社会実装していこうとする若手研究者が集まってきているという点で非常にユニークなプラットフォームになっている。第 2 回目(2015 年 3 月募集)の池田理化賞の際に採択された南一成氏(現・大阪大学医学系研究科特任准教授、採択当時は京都大学物質 – 細胞統合システム拠点助教)は、ご自身が関わっていた研究の成果であるプロテインフリー培地で iPS 細胞由来の心筋細胞が作れる技術の社会実装を目指して、現在も代表を務める牧田直大氏とともに株式会社マイオリッジを 2016 年に立ち上げている。同社は資金調達やメーカーとの連携も決まり、事業を発展させている。それ以外にも、池田理化以外の企業との共同研究ではあるが、採択者がやっていた研究成果が製品化につながっているケースもある。
池田理化が理化学機器の総合商社であるため、申請者が関わった研究の製品化や、研究成果に基づいたベンチャーの立ち上げが増えてくると、お互いに連携することで池田理化のビジネスのネットワークを活用した面白い取り組みに発展していくに違いない。
多様な顔ぶれが出会う場
このように独自の特徴を持った場として池田理化賞は発展してきた。それ以外にもう一つ、第 1 回目から続けている独自の取り組みがある。それは、その実施回の採択者と、参加を希望する申請者を集めて行なってきた交流会だ。申請した研究者間でつながりを作っていくことで、分野を牽引していく人たちが集まるコミュニティを形成することを目指して始められた。毎回ゲスト講師による講演と、採択者による研究紹介を行なっているが、第 3 回の交流会からは採択者の研究紹介にスライドを使った発表ではなく、チョークトークによるプレゼンテーションを取り入れている。チョークトークでは、チョークと名前についている通り、板書しながら自分の研究について発表することになる。これは、ある時高橋氏が採択者の研究室を訪問して指導教官も含めて話をした際に、米国の大学・研究機関ではスライドを使ったプレゼンテーションではなく、チョークトークをやっていることがよくあり、発表する側にとって研究内容をわかりやすく話すトレーニングにもなっていると聞いたことがきっかけ だった。スライドを使った発表ではどうしても情報量が多くなりがちだが、チョークトークにすることでエッセンスを絞った発表になり、結果として参加者どうしでも議論が進むようになった。
研究の面白さを発信する
残念ながら、2020 年度は新型コロナウイルス感染症の影響で交流会を実施することは叶わなかった。このような中で新しい取り組みが始まろうとしている。対面が難しい状況下で理化学機器のメーカー各社はオンラインでのウェビナーを積極的に実施している。池田理化ではこうしたオンラインコンテンツを集約して研究者に対して情報提供する機会を作っているだけでなく、池田理化のスタッフ自らがオリジナル動画コンテンツ、イケダ・オンラインを立ち上げて youtubeで発信するという取り組みも始めている。この自社で立ち上げた動画配信のプラットフォームをうまく活用し、池田理化賞の採択者にチョークトークで研究の背景を伝えてもらう企画が始まろうとしている。どのような伝え方が観る側にとってわかりやすいか手探りの部分もあるが、研究の裾野を研究者間だけでなく一般の人にまで広げていくことができれば、発表する研究者にとっても、関連する分野にとっても意義のあるコンテンツになっていくはずだ。池田理化賞の挑戦は、アカデミアの中だけでなく、アカデミアの外も巻き込んだフェーズに移り、研究に対して新たな価値を提供するプラットフォームへと発展していくに違いない。(文・髙橋 宏之)