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2017.07.06 研究応援

特集:研究を加速する 空間デザインを考える

研究者の多くは、より良い研究環境に身を置いて自らのテーマを最大速度で推進したいと思うはずだ。しかし、研究活動を行うにあたり理想的な環境とは、具体的にどのような条件が揃っていればいいのだろうか。まだ見ぬ最適解を求めて、今回は空間デザインの視点から考察していく。

理想的な研究環境とは?

 もし、あなたが潤沢な研究資金、必要な設備や実験機器が充実していることを求めるなら、教授や研究科の研究費の採択状況を注視しておくべきだろう。それとも、優れた指導者や切磋琢磨できる仲間を欲しているだろうか。あるいは、ラボの拘束時間やプライベートとのバランスなど自由な時間の使い方を望む人もいるかもしれない。おそらくは各々が重視する項目や優先度は異なっているに違いない。

 これまでリバネスでは、研究応援プロジェクトの旗印のもとで研究を加速するための様々なプロジェクトを推進してきた。しかしながら、未だアプローチできていない課題も多く転がっている。今回は新たに、様々な制約のある環境のなかでいかにパフォーマンスを最大化するか、という視点から空間の使い方とそれによって得られうる効果について議論しようと思う。

空間作りで生産性を高める

 まずは人が活動する空間として、企業活動の例を見てみよう。近年では、オフィス環境がそこで働く人々に与える影響について、よく議論されている。今回調査した範囲では、モチベーションや創造性、コミュニケーションに関連する報告が散見された。コクヨ株式会社が実施した「オフィスのモチベーションアップに関する調査」では、オフィス環境(デザイン、家具、備品等)がモチベーションを上げるのに重要であると感じている人は90%、また業務効率に影響があると感じている人は91.8%という結果が得られている(図1)。他社のレポートでも同様の傾向が示されており、総じて7割以上の調査対象者が作業環境とモチベーションに関係があると感じている。また、オフィス環境(デザイン、家具、備品等)が創造性を高めるかという設問に対しても62.6%が効果を感じている。さらに、コミュニケーションにおいても、オフィスデザインへの工夫が社員間のコミュニケーション改善に効果があると感じている人が71.1%と同様の結果が示されている。このように空間が人間の諸活動に影響を与えるという点については、納得していただけることだろう。

 民間企業においてはこれらの認識が浸透しつつあり、近年では従来一般的であった固定席だけでなく、リフレッシュスペースやフリーアドレス席を設けることで、モチベーションや業務効率、生産性を向上させようという試みが多くなってきた。また、子育てスペースを社内に確保したり、逆に在宅での勤務を認める制度やモバイルワークオフィスを設置する企業も増えてきている。しかし、アカデミアにおいては実装段階にあるケースはまだ少ないのが現状だ。

組織の雰囲気はコミュニケーションで決まる

 ここでさらに注目したいのはコミュニケーションの要素である。別の調査結果では、コミュニケーションに課題を感じている企業は実に約8割と示されている(図2)。また、一定の集団組織の風土、雰囲気に影響を与える要素としては、「年功序列」と「世代を超えたコミュニケーション」が重要な点であると考える人が多いようだ。「若手の発言権がない」、「年功序列の意識が高い」ことはコミュニケーションを妨げ、組織の雰囲気を気詰まりで、堅苦しいものにする要素として挙げられている。これらのデータは決して多数の社員を抱える大手企業のみに顕著な傾向ではなく、企業規模や調査対象の入社年次、役職によらず一定の傾向を見せた。

 さて、会社を大学に置き換えて考えてみてほしい。一般的な研究室では、教授、准教授、助教、ポスドクや大学院生、学部生といった20代〜60代までの幅広い世代が一定の空間内でひとつの集団として活動している。研究室には独自のラボルールが適用される場合も多く、そのラボごとの歴史や代々の教授の考え方が色濃く反映されている。また研究分野やその内容、研究室の掲げる方向性にも依存する。研究室の“雰囲気”が自分に合うかどうかは、ラボ選びでは重要だ。このような特徴は企業内でも同様で、事業内容や企業理念によって社内風土が形成される。組織構造がほとんど変わらないとすると、研究室独自の風土の形成においても、やはりコミュニケーションの量、質、頻度といったものが重要な要素を占めると予想される。

 そこで我々は、「研究室内のコミュニケーションを円滑にすることが、ラボの雰囲気を良くし、ひいては研究活動を促進する」と仮定することにした。コミュニケーションが円滑になることで、研究室内のメンバー間での議論が活発化し、新たな着想や視点を得る機会が増える。また、経験豊かな指導者から研究計画のアドバイスなどを得る機会も増すだろうと考えたからだ。次ページからは、この仮説に基づいてさらに議論していこう。

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