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圧倒的低コスト化により、 iPS由来心筋の実用化を促す 南 一成

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京都大学 物質-細胞統合システム拠点 特定拠点助教 南 一成 氏

iPS細胞の実用化にあたっては、世界の死因の第一位を心疾患が占めること、新薬の開発過程で心毒性により頓挫する候補物質が多いことから、心筋が最も有望視されている。しかし、その生産コストの高さとロット安定性の低さから再生医療、創薬への応用は未だ小動物モデルや研究レベルであり、実用化へは至っていない。京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)の南一成氏は、研究者として、そしてベンチャー企業創業者として、この課題を解決しようとしている。

心筋の価格を1/100にした発見

 南氏が自身の最大の武器としている研究成果は、2012年にCell Reportsに掲載されたものだ※1。ES細胞やiPS細胞をサイトカインフリーの条件下で、高効率に心筋へ分化誘導する低分子化合物“KY02111”の発見。従来の、そして今でも広く用いられている、成長因子等のタンパク質を多く用いた培地と比較して、それらのタンパク質を全く使用しないことで材料コストを1/100にまで低減できる画期的な成果だった。「iPS細胞由来の分化細胞は、いずれも高価です。理由は、培地の費用の高さに加え、分化誘導法自体の技術的難易度が高く、ある意味職人芸で、誰でも簡単に作れる、使えるものではないためです」。低コストで分化細胞を供給できるようになれば、研究の裾野を広げ、現在の課題のひとつである立体的な組織の構築など、工学系の知恵が必要な応用にも踏み出せるだろう、と南氏は話す。

ベンチャーを興し、技術を普及する

 2016年8月、南氏が開発した心筋を加工した創薬ツールの供給を目的として、株式会社マイオリッジが設立され、同氏は技術顧問に就任した。マイオリッジの心筋は安価であるだけでなく、培養液に血清由来のタンパク質が含まれていないため病原体のコンタミリスクも低い上に、筋繊維の構造や電気生理学的な性質を決めるチャネル遺伝子の発現量が比較的実際の心臓に近い。また、カルシウムセンサータンパク質であるGCaMPを安定発現することで、微小電極アレイを使わずに蛍光顕微鏡で活動パターンを簡便に解析できるのが強みだ。さらに独自の心筋凍結保存技術により、測定用のマルチウェルプレートの状態のまま凍結して輸送が可能な上、解凍後数日以内で心筋機能が回復するため、ユーザーはそのまま測定に使用できる。

 こうした実績を背景に、安定・安全・低コストな心筋細胞を大学や企業に供給することで、iPS細胞関連技術の恩恵を、必要とする全ての人に提供したいというのが南氏の想いだ。

大学か企業か、ORではなくANDで進める

 今後はアカデミアと企業の双方の立場を活かし、医療への貢献をしていきたいという。「アカデミアの立場としては、安全性が高くて、確かな治療効果がある心筋細胞の開発を進めて再生医療の発展に貢献したいですね。創薬に関しては、ロット差がなく品質の安定性が高い細胞をできるだけたくさんの人に使ってもらえるよう、低コスト化していきます。これは企業として開発をすべきことだと思います」。5年以内に、マイオリッジの心筋を使ってスクリーニングをした新薬候補が出てくるようにしたい、と気を吐く。iPS細胞は2006年の初報告から、急速に実用化研究が進められてきた。その勢いを衰えさせることなく社会へと普及するためにも、南氏の今後の研究は欠かせないものになるだろう。

(文・西山哲史)

関連リンク

饗庭一博講師・中辻憲夫教授ら、ヒトES/iPS細胞から臨床応用に適した心筋分化誘導法を開発:安全・安価・高効率な再生医療の実現化に大きく貢献 [Cell Reports]

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