フタホシコオロギ食用化プロジェクト始動 三戸 太郎・渡邉 崇人
枯れ葉そっくりなコノハチョウ、蘭の花そっくりなハナカマキリ。進化のフシギに魅せられた徳島大学大学院生物資源産業研究部の三戸太郎氏は、遺伝や進化のしくみを解明すべく、コオロギを対象に研究を進めている。一転、共同研究のパートナーでもある徳島県立農林水産総合技術支援センター(徳島大学から期限付きで出向中)の渡邉崇人氏とともにフタホシコオロギの食用化プロジェクトのための研究資金調達をクラウドファウンディングにて開始し、期限まで1か月近くを残し、目標金額を達成した。アカデミアの立場から昆虫食ビジネスに取り組む三戸氏と渡邉氏にその想いを伺った。
昆虫食としてのコオロギ
昆虫を食用とすることのメリットは多い。生態系内の窒素やリンを早く循環させられること、非可食部バイオマスを餌とすることで既存食料とのトレードオフが起きないこと、そして飼料変換効率については、一般的な家畜の中で最も高い鶏の約2倍という高い効率を示すことなどだ。「現在ペット飼料用に市販されているヨーロッパイエコオロギも優れた増殖速度をもちます。一方で私たちが研究で長らく用いているフタホシコオロギは飼育方法がやや難しいものの、サイズが大きいことがメリットです。さらに飼育や研究知識の蓄積も強みです」と三戸氏は話す。
変態メカニズムの理解がプロジェクトを加速する
三戸氏と渡邉氏の共同研究テーマのひとつに「変態」がある。フタホシコオロギは不完全変態昆虫で、20-hydroxyecdysone (20E)とjuvenile hormone (JH)という2種類のホルモンによって成虫化のタイミングが制御される。脱皮を繰り返し幼虫が一定のサイズになると、JH濃度が低下し、適切なタイミングで成虫化が起こる。しかし、JHの生合成経路は不明な点が多い。三戸氏らは、2016年5月、組織発生、細胞分化などの制御にはたらくTGF-β(Transforming growth factor-β)シグナル伝達系が、JHの生合成を制御していることを報告した。この成果は、昆虫の成長阻害剤としての活用はもちろん、逆に過剰脱皮を誘発して、成虫の体長を大きくできる可能性をもつ。食用化プロジェクトにとっても有意義な研究成果だ。さらに、これらの変態に関わる分子はコオロギ以外の昆虫にも共通しており、汎用性の高い成果として活用が期待されている。
アカデミアから昆虫食ビジネスを拓く
2013年に国連食糧農業機関(FAO)が昆虫食の必要性を報じ、世間でも昆虫食に関する話題が増えてきている。「日本ではわざわざ昆虫を食べなくてもよいのではという雰囲気が強いですが、栄養面や環境対策としても価値があるし、試食会では『たこ焼にはかつおぶしよりコオロギパウダーのほうが美味しかった』『素揚げが一番美味しかった』などと学生からも好評を得られています。単純に食わず嫌いのところもあると思います」最終的には世界的な食糧問題の解決に役立てたいと渡邉氏は話す。アカデミアとしては数少ない昆虫食ビジネスへ進出する彼らの動きに、かかる期待は大きい。スタートラインに立ったばかりのフタホシコオロギ食用化プロジェクト、今後の飛躍が楽しみだ。(文・戸金悠)
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