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2016.06.14 研究応援

シロアリの腸にうごめく共生微生物群は遺伝子資源の宝庫となる 大熊 盛也

ロアリは、ヒトにとっては木造家屋を食い荒らす害虫だが、森林においては木質バイオマスの貴重な分解者だ。理化学研究所の大熊盛也氏は、シロアリの腸内環境に共生する微生物群の機能の解明に取り組み、新たな遺伝子資源の探索を行ってきた。

木材を資化する共生微生物

 シロアリの腸には数万細胞を超える原生生物が共生し、さらにその表面や細胞内には10万個もの細菌が共生していることが、30〜40年前からすでに知られていた。シロアリの主食である木材の主要成分リグノセルロースのうち、高分子系化合物のリグニンを除き、セルロース、ヘミセルロースは、ほぼ100%という高い効率で分解され、シロアリに利用される。これまで腸内に共生する微生物群がこの分解機能を担うとされてきたが、分離・培養が困難であり、個々の微生物の機能は謎のままだった。

1細胞ゲノム解析で見えてきた、共生細菌の機能

 これに対して、大熊氏らが取り組んできたのが1細胞ゲノム解析だ。共生細菌をセルソーターによって細胞ごとに分離し、1細胞のゲノム全体を増幅することで、個々の細菌のゲノムを解読する手法である。

 これによって、共生細菌の機能が次々と明らかになった。例えば、原生生物の細胞表面の細菌がリグノセルロース分解酵素を多数持つことを発見、原生生物のリグノセルロース分解を助けている可能性を示した。また、シロアリの栄養源とエネルギー獲得の面では、原生生物の細胞内に共生する細菌のなかに、窒素固定を行うものや、セルロース分解時に副産物として生じる二酸化炭素と水素を使って、シロアリのエネルギー源である酢酸を生成する機能を持つものがいることがわかった。

okuma2シロアリ腸内の新たな遺伝子資源と可能性

 現在、理化学研究所バイオリソースセンターで室長を務める大熊氏は、シロアリの共生微生物群は将来有望な遺伝子資源の宝庫となると考えている。効率的なリグノセルロース分解について理解が進めば、リグノセルロース資源の有効利用に役立つ。共生細菌で発見された、酢酸生成機能は、バイオリファイナリーの面でも注目される。シロアリ腸内という多様な微生物が複雑に共生する特殊な環境だからこそ、それらの機能を解明し、まだ活用されていない遺伝子資源を発掘できる可能性に、大熊氏は大きな期待を寄せている。(文・塚越光)

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