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2021年9月公募第54回リバネス研究費

第54回リバネス研究費 日本ハム賞 募集テーマはこちら

大阪大学大学院 工学研究科 テニュアトラック助教

岡 弘樹さん

採択テーマ
過酢酸製剤のon site製造に向けた究極の過酸化水素製造法の確立

異分野への申請で、有機材料の活躍の場を広げる

岡弘樹氏は自身のメジャーとして有機材料の研究にこだわる。その理由は、持続可能な社会を実現するためには、希少なレアメタルなどの無機材料を資源豊かな有機物で代替していくことが必須だと考えるからだ。そんな彼があえて食品にまつわるテーマを募る「第54回リバネス研究費日本ハム賞」へ申請したのはなぜか。異分野との連携を鍵とする研究ビジョンへ迫る。

殺菌剤合成の環境負荷低減に寄与する技術を伝える

機能性有機材料を研究する岡氏は今回、自身が合成を得意としている有機触媒「ポリチオフェン」を使い、肉の殺菌に用いられる過酸化水素や過酢酸を光エネルギーまたは電圧印加で合成するというテーマを日本ハム賞へ投げ込んだ。食肉の殺菌消毒に使われる過酢酸は、過酸化水素と酢酸の反応で作られる。その過酸化水素を工業的に合成するときに大量の発がん性の有機溶媒や高圧水素が使用され、環境負荷が高いことを課題として知っていたことから着想したそうだ。当然、審査する立場から見ると想定外の研究領域からの提案になるというのは意識していた。そのため、面談に向けて技術の詳細だけでなく合成にかかる時間やコスト、合成できる規模など具体的なシステムに関する資料も準備して臨み、当日は狙い通りそれらのポイントが議論になった。異分野の企業に提案できる機会はなかなか無い。だからこそ、専門用語を噛み砕く等の配慮まで徹底して行った。研究内容を伝える大事な挑戦だったと岡氏は語る。

異分野を仲間に、長期的な社会課題解決を目指す

岡氏は、社会課題に対し本質的な解決策になり得るシステムを構築するために、自分の有機材料という手札と周りの研究者仲間たちの力を合わせるイメージで研究テーマを立てる。例えば、スウェーデンのチームと共に石油原料ではなく木材パルプから「ポリチオフェン」を合成する研究を立ち上げたりもした。その思考の理由は、機能性有機材料が無機材料を代替し普及する世界を実現したいといっても、一人では社会実装されるデバイスまで作り切ることはできないからだ。そして普段参加する学会では出会えない業種の企業との連携を考えるのに、リバネス研究費への申請はうってつけだと思ったそうだ。
「例えば脱炭素など、社会から開発を要請されている技術の中でもすぐさま企業が開発に取り掛かりにくいものがあります。そういった課題に対して、10年後、20年後に実現できるかもしれないシステムを提案していくのが研究者の仕事だと考えています」今回、提案を通して食品会社を仲間にした岡氏。彼の挑戦が、あちこちで有機材料が使われている未来への一手になることは間違いない。 (文・小山奈津季)