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第51回リバネス研究費 ダイセルヘルスケア賞採択者「腸管-肝臓-脳相関の解明と制御で腸の健康をつくる」寺谷 俊昭さん

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採択テーマ

食成分が腸管-肝臓-脳軸の活性化の維持に果たす役割について

慶應義塾大学 医学部消化器内科 特任准教授
寺谷 俊昭 氏

腸管-肝臓-脳相関の解明と制御で腸の健康をつくる

腸と肝臓と脳を介した情報伝達のネットワークを世界で初めて発見した慶應義塾大学の寺谷氏。今回、臓器相関の考え方を人の健康づくりやその食事の制御に活かすというテーマで採択に至った寺谷氏は、基礎研究を通じた企業との連携の新しい形を我々に提示している。

腸の情報は肝臓を介して脳へと至る

これまで、メタボリックシンドローム患者が多く発症する非アルコール性脂肪肝炎病態メカニズムの解明など、肝疾患を中心に研究を行ってきた寺谷氏。食と健康の関係性をより深く研究する上で着目したのが、血液中の液性因子や神経を介して臓器が互いに影響し合う“臓器相関”という考え方だ。例えばうつ病患者が炎症性腸疾患を併発するケースが多いなど、脳が制御する自律神経が腸内免疫に関与する可能性が示唆されてきたが、両者間を情報伝達する経路には未だ謎が残されていた。寺谷氏は2020年、肝臓が腸内環境を感知し、迷走神経を介して脳に情報伝達することで、腸管内で免疫寛容に関わる末梢性制御性T細胞( pTreg )の分化・誘導を制御していることを世界で初めて報告した。「腸→肝臓→脳→腸反射による腸内恒常性の制御」という新しい情報伝達ネットワークの存在と、その役割の一端を明らかにしたのだ。

腸内恒常性を維持する食成分を求めて

論文では肝臓と脳を繋ぐ迷走神経を外科的、化学的に障害することで大腸のpTregが減少し、その結果大腸炎にかかりやすくなることを示した。寺谷氏の次の興味は、腸から肝臓への情報伝達だ。両者は腸間膜静脈と門脈を通じて繋がっており、腸管から吸収された食成分が血流に乗って運ばれる。脳→腸反射へと繋がる肝臓迷走神経を刺激する因子は一体何なのか。今後、食成分に起因する神経刺激因子やその受容体が特定できれば、腸内恒常性の維持と破綻のメカニズムに対する理解が深まるだろう。その先には、食によって各種腸疾患を制御する可能性が見えてくるはずだ。

基礎研究と歩調を合わせた産学連携の道

腸内環境の制御に関わる臓器間ネットワークの解明を目指す本研究に対し、株式会社ダイセルヘルスケアSBUの稲井田氏、卯川氏は「基礎的な知見の蓄積が、将来的に新しい機能性食品の発見に繋がるはず」と期待を寄せる。ダイセルは腸内代謝物を機能性食品素材の中心と位置づけ、研究開発を手掛けてきた。その過程で3,000種を超える細菌ライブラリを保有しており、その中にはダイセルが扱いを得意とする嫌気性細菌も含まれる。本研究により肝臓迷走神経の刺激因子が明らかになれば、それを体外で発酵生産できる可能性がある。さらに寺谷氏は「誘導体の産生などダイセルのノウハウを組み合わせれば、より腸管の健康維持に働きやすい特徴的な刺激因子を作れる可能性もある」と話す。臓器相関や微生物-宿主間相互作用など、腸に関わる研究は複雑化していく傾向にある。丁寧に基礎研究を進めるアカデミア研究者と独自技術を持つ企業が長期的に目線を重ねることで、健康社会の実現に向けた新しい道が拓かれるのだ。

(文・井上 剛史)