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自身の覚悟で仕事をつくる研究員をいかに育てるか/味の素ファインテクノ株式会社 インタビュー

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プロフィール:中村 茂雄 氏

味の素ファインテクノ株式会社 代表取締役社長

1990年東京工業大学生物工学科卒業。2017年より同大学生命理工学同窓会会長。味の素株式会社アミノサイエンス事業本部バイオ・ファイン研究所マテリアル&テクノロジーソリューション研究所素材開発研究室長を経て現職。味の素株式会社執行役員。


 

 味の素ファインテクノ株式会社は、味の素グループにおけるファインケミカル事業の中核を担う企業だ。中村茂雄氏は入社以来、グループ内で化成分野を中心に様々な開発経験を経て、2019年に代表取締役社長に就任した。社内研究員の社外との交流の機会を積極的に作ろうとしている同氏に、若手研究者育成にかける想いを伺った。

 

研究者の信念が困難を乗り越えさせる

 中村氏が研究員の育成に力を注ぐ背景には、若手時代の苦しい経験があるという。入社当時の味の素社は、味の素の副産物の新たな利用先を模索し、プリント配線板の絶縁材料のフィルム化という高難度の開発に挑もうとしていた。未経験領域で誰もが躊躇するなか、大きな事業になる可能性を信じ中村氏は開発に名乗りでた。そして昼夜問わず仲間とともに必死に研究を重ね、世界初のフィルム状絶縁材「味の素ビルドアップフィルム(ABF)」を研究を始めてから4ヶ月という異例の速さで生み出した。しかし新規参入の壁は厚く、企業に採用されることなく、バブルの崩壊と共に開発規模は縮小、入社4年目で転籍を余儀なくされたという。しかし、パソコンの普及により遅れてABFは商機を掴んだ。中村氏は再度チームに呼び戻され、ABFは全世界の主要なパソコンのほぼ100%で用いられるほど成長した。研究開発が日の目をみるまでには山程の困難があるが、それを支えるのは自身の信念だ。そして今、自社の研究員それぞれが人生を賭けるほど入れ込みたいプロジェクトを持ってほしいと試行錯誤をしている。

 

アカデミア研究者の刺激で研究魂を呼び覚ます

 「若手研究者こそ研究にもっと浸り、研究から刺激をうけてほしい」と中村氏。以前は最先端のジャーナルを議論が、頻繁に研究所内で沸き起こっていたという。しかし、昨今は、働き方の変化もあり、機会をつくることが難しくなってきた。また、同社の製品開発の基本はお客様のニーズに沿うことだ。しかし、そのコミュニケーションだけでは、研究員の発想がどんどん限定的になってしまう。「単なる素材売りをしてほしくない。素材を使って未来の世界を描いてほしいのです」。そのためのひとつの刺激となるのが、アカデミアの尖った研究者との交流ではないか。本や論文だけでは学べない「生き様」を感じ取って、研究者であれば誰しも抱くであろう、こんなものを作ってみたいという感覚を、自社の研究員にも呼び覚ましたいと考える。そこで2019年12月に実施したのが「リバネス研究費(※)味の素ファインテクノ機能性材料賞」だった。

 

自分で覚悟を決める経験を積ませたい

 中村氏は、リバネス研究費の審査やその後の交流を通じて外部と交わる経験をさせたいと考えた。同賞では「機能性材料とその応用に関するあらゆる研究」を募集テーマに掲げ、研究アイデアを募ったところ30件以上の申請が集まった。それら申請書を若手研究員の判断で審査するよう求めた。書類を読み興味をもった申請者には直接会って議論もさせた。そして、最終審査会で「面白いと思った点」や「一緒に研究したいと思ったか」などの観点から自分の言葉でプレゼンさせ、採択者を決定したのだ。会社や所属部署の視点で議論しがちな研究員に対して、「会社云々ではない。あなた自身はどうなのか」という言葉を投げかけた中村氏。共同研究にすぐ繋がる先を探すのではなく、「自らが面白いと思った人に、自らの感覚を信じ、責任をもって投資をする」という覚悟を決める経験をさせたかったのだ。世に未だ無いものを生み出す研究開発においては、属人的な研究者の強い思いや、粘り強さが必要になる。このような取り組みを通して、その一端を伝えようとしていた。

 

研究員の個を育成することがマネージャーの役割

 様々な刺激をうちこみ、各人にあったやり方を模索しながら育成することが、研究所を率いるマネージャーとしての重要な役割だと考える。「最初から決めてかからず食い散らかすくらい色々手を出さないと、新しいものは生み出せない」。だからこそ、若いうちから自分でプロジェクトを取り回し、たくさん失敗することが重要だと話す。失敗によって次の仮説が生まれ、その後のチームビルディングに活きてくるのだ。将来的には、自社内に限らず、ベンチャーに出向し彼らのスピード感や世界観を肌で感じながら研究開発を行う機会を作るなども良いと考えている。企業の内部・外部という枠を超えて、アカデミア、ベンチャー、大企業の人材が共に刺激を与えながら学び合う場を作ろうとする中村氏。そうして研究に邁進させることで、将来の新規事業の創発に繋がるのではないだろうか。

 

「味の素ファインテクノ 機能性材料賞」の審査に参画した研究員の声

研究開発部第4グループ 長嶋 将毅 氏

外部の研究者との交流機会が多くなかった中で、アカデミアの研究者とのディスカッションは非常に刺激的でした。自分と年齢もさほど変わらない研究者の知識の深さと熱量に圧倒されました。自分が研究者として実現したいことに採択者の新しい発想を重ね合わせて、次世代材料の開発など研究開発を共にしたいです。

 

第47回リバネス研究費 味の素ファインテクノ 機能性材料賞

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