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第46回日本ハム賞採択者「グルテン感受性が心身に及ぼす影響を学術的に紐解く」本山 美久仁さん

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[第46回リバネス研究費日本ハム賞]採択者インタビュー 
【採択者】
本山 美久仁 氏(兵庫医科大学 精神科神経科学講座)
【採択テーマ】
日本におけるグルテン感受性と身体・精神症状の調査、およびグルテン感受性陽性者に対するグルテンフリー食による治療効果の検討
【研究費情報】
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パン、パスタ、ラーメン、うどんなど、世界中でよく親しまれる様々な小麦関連食品に含まれる、グルテン。近年、グルテンに対する過剰な感受性が身体症状・精神症状に影響を及ぼす可能性があることがわかってきた。兵庫医科大学精神科神経科学講座に所属する本山氏は、グルテンへの感受性と身体症状や精神症状について、それらの関連性を日本で初めて明らかにしようとしている。

はじまりは、原因不明の精神疾患に立ち向かうため

 本山氏がグルテン感受性と精神疾患の関連性に着目したきっかけは、精神科医として臨床をする中で、同じ病気でも患者さんによって辿る経過が大きく異なることや、同じ薬でも効きが異なることが理由だったという。うつ病や統合失調症などの精神疾患は、症状が診断基準を満たしていれば診断されることが多い。原因が解明されておらず客観的な指標に乏しい精神疾患では、そもそも診断が非常に難しい。実はこれら精神疾患の一部は、様々な病気の集合体である可能性があると本山氏は考える。それ故、治療を難しくさせ、現に3割もの方々が改善しないという。
そんな患者さん達を何とかしたいと本山氏が着目したのがグルテンだった。欧米諸国では、グルテンへの過剰な感受性により、様々な身体症状や精神症状を呈する一群が存在すると報告されていた。また近年、統合失調症の発症機序に栄養摂取との関連を示す報告や、グルテンフリー食による統合失調症の改善例の報告がある。

実は多い!?日本人のグルテン感受性

  グルテン関連疾患は、大きく3つにカテゴライズされる。セリアック病をはじめとする自己免疫疾患、アレルギー疾患、そして、どちらにも属さない”グルテン感受性”だ。グルテンに対し過剰な感受性を有すると、グルテン摂取により腹痛や下痢などお腹の不調、頭痛、だるさ、疲れやすさ、うつなどの身体や精神症状が引き起こされることがある。前者2つの研究が進みつつあるのに対し、後者は世界中をみても未だ解明が進んでいない。
グルテン関連抗体の、血中抗体価がある一定基準以上であっても、グルテン摂取によって必ずしも全員に症状がでるとは限らない。グルテン感受性は、欧米では一般人口の約 5%に存在すると報告されているが、日本で医学的な調査報告はないという。これに対して本山氏らのグループでは、これまでに精神疾患におけるグルテン感受性とその臨床的特徴に関する研究、健常群についての調査などを行ってきた。現在までに健常群の12%(7人/60人)が陽性であると判明し、日本の実態は欧米とは大きく異なる可能性が出てきた。「日々のなんとなくの不調が、実はグルテン摂取によるものだと気づいていない人もいるかもしれません。」と本山氏は懸念している。

日本の実態を知り、医学的エビデンスをとる

 本申請では、日本におけるグルテン関連抗体の保有率の調査を進め、グルテン感受性と身体・精神症状などの背景因子との関連性を明らかにしようと試みる。まず対象者のグルテン感受性の有無を、グルテン関連抗体である抗グリアジン抗体を用いて評価し、あわせて、身体・精神症状に関する問診を行う。問診は、健康関連QOLの評価(特定の疾患・症状の調査ではなく包括的な健康に関する生活の質を測定)、社会生活機能の評価、不安症状やうつ症状の評価、また、身体症状の評価、特に症状が出やすい腹部に関する症状やそれらが生活に与える影響など詳細に調査を行う。さらに、症状が出現した年齢、食行動、アレルギーの有無、現在の内服や治療内容などを、本人及び家族からも聴取するという。「まず実態を明らかにし、エビデンスを持って発信することでグルテン感受性と身体症状や精神症状との関連性があることの認知度を上げたい」と話す。
そして、グルテン感受性を持ち、身体・精神症状がグルテンとの関連を疑われる者に対し、グルテンフリー食の摂取を行い、症状や抗体価の変化を観察する予定だ。グルテンフリー食とは、小麦の精製過程で生じるグルテンを除去した食事である。「治療法としてのグルテンフリー食の有効性を調べていきたい」と力強く語る本山氏。医学的な調査・研究例のない日本において、重要な知見になることは間違いないだろう。

グルテンフリー食が“必要な人”のもとへ届く世界へ

 本山氏らのグループは昨年の10月にグルテン専門外来を開設し、グルテンに関連する身体症状や精神症状が疑われる患者の専門的な診療も行っている。まだ数は少ないが、実態が少しずつ見え始めてきているようだ。未解明要素の多いグルテン感受性について、研究にとどまらず患者を目の前にすることで、独自の深い知識と使命感が醸成されていくのだろう。
「グルテン感受性に対する治療法としてのグルテンフリー食に期待していますが、日本ではまだ認知が浅いこともあり商品が少ないのが現状です。」と本山氏。日本ハム社ではアレルギー対応食品として、特定原材料7品目を使用しないハム、米粉パンや米粉麺を販売する。本山氏は「将来は、医学的にみて必要な人に届けるために、美味しく手軽なグルテンフリーのお弁当や料理キットなども日本ハムさんと一緒に開発してみたいです」と話す。日本で初めてとなるグルテン感受性の学術的解明を礎に、将来の治療法の開発をも視野に入れる。

(文・秋山 佳央)

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