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シミュレーションで 店舗環境と人の動きを最適化する 柳澤 大地

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第37回リバネス研究費吉野家採択者インタビュー

群集の動きを予測・再現できるシミュレーション開発を行う柳澤大地氏。第37回リバネス研究費𠮷野家賞に申請したのは客席とキッチンのそれぞれで人の動線をモデル化し、調理機器や客席の最適な配置案の提示を可能にする研究だ。「どうしたら渋滞を減らせるか」という研究が、飲食業における渋滞を解消する。採択テーマ:数理モデルによる最適な客席レイアウトの研究/シミュレーションによる店員の動線と連携を考慮した動きやすい店舗の研究
採択者:
東京大学 先端科学技術研究センター 准教授 柳澤 大地

人の動きを数式で示す

 学生時代、航空宇宙工学科に所属していた柳澤氏は、研究室を選ぶ際、自分の力で明確な成果を出せることがしたいと考えていた。飛行機の設計なども関心があったが、ひとりで全てを組み立てることは到底できない。自分ひとりで立案から実装までの成果を完結できる分野を志望し、シミュレーションの世界に飛び込んだ。研究をしているというよりもゲームをしているという感覚だったが、それがアカデミックにも価値があるといわれることがおもしろかった。人やモノの動きをシミュレートすることで渋滞の発生を再現したり、解消法を見出したりすることが楽しく、次第にのめり込んでいった。当時は学問として名前がついてはいなかったテーマだが、現在では社会的にも重要性が高まり、渋滞学と呼ばれるひとつの学問分野が生まれている。そのさきがけとなる研究を同氏は行ってきた。

 同氏のコアとなる技術はセル・オートマトンと呼ばれるモデルだ。空間を格子状に仕切り、各マス(セル)に数式を入れ込んでいく。それぞれのセルに人やモノが入ったとき、数式に従った挙動を行うことで、群集の動きをシミュレートできる。代表的な事例は室内からの避難経路のシミュレートだ。例えば火災が起きたとき、発生源から人は離れ、出口に殺到する。出口付近には障害物がない方が速やかに避難できると予想されるのが一般的だが、実際にシミュレートしてみると、条件によってはポールのような障害物があったほうが速やかに避難できることが提示されることがある。協力者を集い、実験的にそのシチュエーションを再現すると、実際に障害物があったほうが速やかな避難が行われた。よいモデルを構築できれば、現実世界でも再現しうることを示した事例だ。このコア技術を背景に、「セルの配置と数式を工夫すれば、快適な店舗づくりに活かせるかもしれない」と申請に踏み切った。

飲食店に関わる全ての人の動きを最適化する

 飲食店にシミュレーションをどう活かすか、柳澤氏は2つの視点で考えている。ひとつめは無駄な空席ができない客席のレイアウトだ。「大学の食堂でもよく起こっていますが、混雑時でもテーブル席にはひとつ空きの席があったりします。6人席では向かい合わせにならないようジグザグに座って3人しか座ってないことがよくあります」。混雑時の空席はお客さんの待ち時間を長引かせることにつながり、解消できれば快適な店舗づくりにつながるのではないかと考えたのが申請のきっかけだ。理想は、スタッフが適切な席に案内するのではなく、お客さんが自然と適切な席を選んでくれること。「実際には人の心理面も考慮しなくてはなりませんが、実店舗において、客席でどの席が最も座られているか、お客さんは何人組が多いのか、といったデータを分析し、数式データに落とし込むことで最適なレイアウトを見出すことが可能かもしれません」。まさに実店舗を実証フィールドとして活かせる興味深い研究だ。

 もうひとつは、スタッフの動きの最適化だ。限られた店舗のスペースで、スタッフは注文を取りに行ったり、調理したり、会計に行ったりと様々な動きを行う。「動線によってはスタッフ同士がぶつかって動きが妨げられたり、無駄な動きに時間を費やしていることも考えられます」と柳澤氏。実際の店舗での人の動きを解析することで、物の位置を変えることや、作業の優先事項を変更するなどの改善策が提案できるだろうと考える。セル・オートマトンにおける、各セルの所要時間の見積もりと頻度の洗い出しがポイントになるだろう。また、避難モデルの研究成果も応用できそうだという。「ひとつだけの出口を目指す避難モデルを拡張し、ひとつめの出口に到達したら、次の出口に移動する、といったルールを組むことで再現できるのではないかと考えています」。複雑な事象をよりシンプルなモデルで表現する研究に、柳澤氏は難解さとともに挑戦しがいのある課題と捉えている。

新しい〇〇モデルを創りたい

 行動をシミュレートする研究は、過去に作られた数理モデルの考え方を応用していることが多い。「現在の代表的なモデルに、ソーシャルフォースモデルとフロアフィールドモデルという2つがあります。開発から15年、そのモデルを“幹”として、たくさんの研究テーマが枝として広がっています。私の将来の目標は、新しい幹となるモデルを作ることです」と同氏は言う。だからこそ、柳澤氏が作ろうとするモデルは、シンプルで汎用性が高いものだ。例えば、ある駅を対象とし、その駅をそのままシミュレーションで再現するというのは都市工学などの分野でもよく行われている方法だが、その方法は他の環境に展開することを主眼に置いていないことが多い。むしろ、よりシンプルで基礎的なモデルを開発し、それを駅だったらこのように拡張、飲食店だったらこのように拡張、というように、汎用性が高く世の中にも実装されやすいモデルを作ることを同氏は目指している。今回野家とタッグを組んで進める、複雑な事象も再現できるシンプルなモデルの開発は、“幹”となるモデル開発へとつながっていく。シミュレーションと実店舗の融合から生まれる飲食店を変える技術が、その後どこまで広がりをもって汎用されていくのか楽しみだ。(文・戸金 悠)

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