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研究者どうしのつながりを 建物で具現化する

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写真提供:名古屋大学

<前の記事:人とモノとの境界に設計の力が宿る 折坂 聡彦

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所

分野の異なるグループ間で研究者が価値観を共有し、学際的な研究を進めていくことは、依然としてハードルが高い。個々人の努力だけでなく、組織全体としての仕組みがどれだけ機能しているかも試される。名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(以下、ITbM)は、異分野の研究者どうしが交わる場の実現を目指して、若手PIが研究棟のデザインからこだわって設立された。5年が経ち、分野融合型の研究エコシステムが醸成されつつある。同研究所に研究室を構える副拠点長の東山哲也教授と研究推進主事の佐藤綾人氏の話に研究所の新しい在り方を垣間見た。

若手リーダーが率いる異分野融合型の研究所

 ITbMは、日本学術振興会の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に採択されている拠点のひとつで、合成化学者と動植物生物学者の融合を核として研究が行われている。「自分が望む生命分子を生み出すことができる研究拠点」をアイデンティティーとして掲げる。他のWPIの拠点と比べて、若手PIが中心となって場づくりを行なってきた。発足時に集まった10人のPIの平均年齢は43歳、全員が50歳未満だ。この中には海外の研究機関でもPIとして活躍するメンバーもいる。そのPIが自身の右腕として顧問した若手リーダー研究者(Co-PI)を中心にグループを運営するCo-PI制度という仕組みも構築してきた。

 このような若いリーダーを集める仕組みに加えて、ミックスラボというコンセプトでグループ間の共同研究と異分野の融合を盛んにする挑戦が続けられている。発足してから5年経った現在でも、ワクワクした雰囲気が続いているということから、この取組みがうまく回り出していることが感じられた。

人の交わりを促す研究空間

 デザインは機能を併せ持ってこそ意味があるが、ITbMは研究棟としてPIらのコンセプトをうまく体現しているようだ。特に強く感じたのは、人が交わるというコンセプトを実現するためのデザインへの強いこだわり。「一番大事なのは人。人のつながりの中でいい研究が生まれてくるという意識をPIたちがしっかりと共有できています」と東山氏は研究環境で重要視するポイントを説明する。このコンセプトはPIの間で自然に醸成されていたそうだ。PIらが自ら建築学科の教員らとディスカッションを重ね、研究棟のデザインへと落とし込んでいった。

 建物は、3階、5階が居室フロア、2階、4階が実験フロアで、居室と実験室は螺旋階段でつながる。さらに6階に、共用施設のライブイメージングセンター、化合物ライブラリーセンター、温室を備えている。フロアに上がると、なるべく壁を作らない、見通しの良さを意識した設計だということにすぐ気がつく。居室に至ってはラボ単位で区切っていないため、自然に中の学生や研究員どうしが交流できる環境になっている。また、居室フロアのメインの廊下まわりの壁や、ミーティングルームには、コンクリートや金属のパーティションをなるべく使わず、ガラス張りにしている。これが内部のメンバーだけでなく、外部から来た人への開放性も演出しているようだ。

写真提供:アールフォト 板津 亮

ミックスラボから分野をまたぐ人材が育つ

 ITbMの重要なコンセプトであるミックスラボは実験室の様相によく表れている。生物系と化学系のメンバーの交流を実験室レベルでも促すために、実験室を共有している。安全性の都合上、化学合成の部屋を区切ってはいるものの、ガラス張りにしてあることで何をやっているかがすぐにわかる。また、機器は基本共用で、様々なところにグループ間の壁をなくそうとする試みが伺える。

 建物の中で学生の移動が自由にできるので、化学合成を学ぶために有機化学の研究室に数ヶ月出入りして、化合物ができたら自分のラボに戻って来てバイオ系の実験をやるということが実際に起こっているそうだ。東山グループの中には週一のプログレスレポートの時だけ研究室に顔を出し、週の残りの時間は有機合成の研究室で実験をしている学生もいるという。同じ建物の中という絶妙な物理的距離感が人の交わりを活性化して、アイデアに多様性をもたらしている。「生物と化学の両方の考え方でアプローチできる学生が増えてきています」と東山氏は実感をもって話してくれた。個々の研究室がもつコアとなる価値観はそのままに、その外側を取り囲んでいる概念を取り払う。設立当初PIたちが目指していたことがようやく実り始めている。(文・高橋 宏之)

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