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2016.04.20 冊子『incu・be』

町工場は研究者のドラえもんになれる 青木 優和

医療や海洋開発など、多くの産業が生み出される研究を担う研究現場において、実験や調査に必要なカスタマイズされた機器のニーズは高い。株式会社リバネスでは、区内に3000以上の町工場を持つ墨田区と共に、研究者と町工場が連携し、リアルなものづくりを通して研究を加速させる新分野ジョイント事業を実施してきた。2015年度の本事業に参加し、プロトタイプ(試作品)が完成した東北大学大学院農学研究科 青木優和先生に、研究者から見た本事業について伺った。

墨田の町工場に相談しようと思ったきっかけは何でしたか?

この事業はリバネスのスタッフからご紹介いただきました。研究対象が海洋であり、調査の際には既存の製品では対応できないケースが多々あったので、思いついた調査用具の製作を実現してくれる相談相手が欲しかったのです。しかし、そのためにどこに連絡をとればよいのかはわかりません。幾多の町工場の中から私の思いを実現してくれる相手を探し出すことは、現実的には不可能でした。今回の事業では、相談役としてリバネスが間に立って適切にコーディネートしてくれたことで、可能性のある町工場の方と出会えた事はとてもよかったと思います。

マッチングイベントや町工場訪問などで町工場の方と会話したときに受けた印象はどうでしたか?

実は、最初に新分野ジョイント事業のマッチングイベントに参加したとき、ダメかなと思いました。町工場の方が想定していたのは、材料が特別で、機構が複雑で精密な物のようでした。私が出したニーズでは「そんな簡単なものだったら自分で作れるのでは?」と言う意見が出たほどです。しかし実際には難しい。一般の大学には、工作や製作を請け負う機能が存在しないことが多いのです。また一見簡単に見えても、例えば使う環境が海であれば錆に強い、波浪に耐える、水中で容易に取り扱えるなどシビアな条件を満たす必要があります。そんな意識の相違があって、不安に思ったのです。しかし、リバネスが町工場と私の間に入ってコーディネートしてくれた町工場を訪問したときに、この不安は解消しました。私が出した大雑把なアイデアやラフスケッチを、リバネスを介して町工場へ伝えると、相談しながら具体的な提案を返してくれたのです。とても期待が持てました。

プロトタイプができ上がりましたが、使用された感じはいかがですか?

正直なところ、驚きました。私がこの器具を使う場所は海なのですが、特殊な状況を想定して、耐久性や取り扱いのしやすさなどがよく考え抜かれており、細部に至るまでよくできていました。これならもっと高い要求ができるだろうと考えて、現在、改良に向けての試用を繰り返しています。

研究者へ向けて

「江戸っ子1号」の例から、墨田区の町工場の技術力は知っていました。あとは研究者と町工場をつなぐ契機が欲しかったのです。リバネスが研究者と町工場の連携を可能とするプラットフォームを作ってくれたのは、とてもよかったと感じています。野外調査を主な研究としている研究者は、調査場所によって使用する道具が様々です。研究者が本当に使いたい調査用具や機器のニーズはもっとあると思います。事実、私が使用している試作型の器具でさえ、すでに購入したいとの話が出ています。私は、今後の器具の改良や新規の製作に、この仕組みをさらに利用してゆきます。研究者にとって、町工場は「なんでも希望を叶えてくれるドラえもん」になれると思っています。 (文 南場 敬志)

|青木 優和さんプロフィール|

aoki2東北大学大学院農学研究科
水圏植物生態学研究室

スクーバ潜水によるフィールド調査に加えて実験室での飼育や培養実験を通して岩礁海底でウニや巻貝など海藻を食物とする植食動物の生態学的研究を行う。