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2016.08.30 研究応援

転写因子-DNA相互作用を利用し、 有用酵素のスクリーニングを加速する 兒島 孝明

生体高分子どうしの相互作用は、生命現象の発現に欠かせない現象だ。中でも根源といえるのが、DNAと転写因子との相互作用であろう。転写因子は、そのDNA認識部位の構造に応じて特異的なDNA配列と結合し、遺伝子発現を制御する。

名古屋大学の兒島孝明助教らは、転写因子変異体による結合様式を分子間相互作用解析システムBLItzで測定し、新たな研究ツールを生み出そうとしている。

User Interview———

遺伝子とタンパク質がビーズ上で結びつく

 兒島氏らが開発を進めているのはエマルジョンPCRと核酸結合ビーズを利用し、遺伝子のクローニングとタンパク質スクリーニングをハイスループットで実現する技術だ。エマルジョン(オイル中の水滴)と核酸結合ビーズを用いて1液滴あたり鋳型DNA平均1分子以下の条件でPCRを行うことにより、遺伝子ライブラリをビーズ上にクローン化できる。ここで、スクリーニング対象となる酵素の遺伝子ライブラリには、末端に転写因子の遺伝子配列を付加、ビーズ側には認識ターゲットのDNA断片を固定化しておく。この“ビーズライブラリ” が確率的にひとつずつ収まるよう再度エマルジョンを調製し、この液滴中で無細胞タンパク質合成を行うことで、転写因子-酵素の融合タンパク質と遺伝子とが対応付けられたビーズができあがる。例えば酵素の活性に相関して蛍光強度が変われば、セルソーターを用いて強い活性を持つものをスクリーニングし、同時にこれをコードする遺伝子の情報を獲得できるわけだ(※)

※Zhu B, Mizoguchi T, Kojima T, Nakano H, PLoS ONE(2015),10(5):e0127479. doi:10.1371/journal.pone.0127479

転写因子を改変し、酵素群のスクリーニングに活かす

 これだけでも有用酵素の探索を効率化、自動化できる可能性を持つ技術だが、兒島氏らはさらに様々な種類の変異転写因子を用いることで、異なるDNA配列に結合できる認識パターンを作ろうとしている。「これが実現すれば、ビーズ上に2つ以上の転写因子融合タンパク質を同時に結合させることができます。例えば連続反応を担う酵素群全体としての活性によってスクリーニングする、といったことが可能になるのです」。そのために現在は、BLItzを用いて転写因子の変異体シリーズと様々な配列のDNAとの間で、結合速度や解離速度の測定を進めている。

図1 BLItzの使用法 (a) 使用の際は、Protein Aや抗体等が固定化されたバイオセンサーチップをアームに取り付ける。(b)サンプル溶液4μLをサンプルホルダーにセットし、アームを下ろせば測定が始まる。

図1 BLItzの使用法
(a) 使用の際は、Protein Aや抗体等が固定化されたバイオセンサーチップをアームに取り付ける。(b)サンプル溶液4μLをサンプルホルダーにセットし、アームを下ろせば測定が始まる。

操作のシンプルさが学生指導にも役立つ

 BLItzのセンサーチップにビオチン化オリゴDNAを結合し、精製した転写因子の溶液に浸して測定を行う。結合と解離を見るのに1条件で約10分程度、それをひたすら繰り返して変異体、認識配列ごとの結合様式を分析する。捕まえたいのは、複数の転写因子変異体が、互いに競合せず別個のDNA配列を認識できるようなセットだ。「操作がシンプルなので、何か異常なデータが出た時に問題点を洗い出しやすいのが助かります」。学生が行った実験についてのレビューもしやすく、「ユーザーフレンドリーというだけでなく、ディレクターフレンドリーですね」と話す。

 バイオマスエネルギーの生産や医薬品合成など、酵素反応は産業上においても重要視されている。より良い酵素の探索を自動化、高速化できれば、必ずや社会に大きなインパクトを与えるはずだ。


小型、簡便、強力な相互作用アッセイ

 BLItzは手のひらに乗るほどの小型サイズながら、簡便にラベルフリー、リアルタイムの分子間相互作用測定が可能だ。使用の際は、測定部に専用のバイオセンサーを設置し、4μLのサンプル溶液に浸せば測定が開始される。自作の抗体と抗原とのアフィニティを見たい場合は、抗体溶液をウェルに入れ、Protein AまたはGを固定化したセンサーを浸す。結合がプラトーに達したら、アームを上げてウェルを洗浄し、抗原溶液を加えてアームを下げるだけで良い。かかる時間はわずか数分。細胞抽出液や血清などクルードサンプルを使用できることも大きな特徴といえる。

肝はバイオセンサーにあり

 測定の仕組みは、Biolayer Interferometry(BLI)という技術だ。バイオセンサーは、先端近くに屈折率の異なる素材がサンドイッチ状に重なり、先端の層には抗体やNi-NTA、Protein Gなどが固定化されている。センサー内部から白色光を通すと、一部は屈折率が変わる界面で反射し、また反射光どうしは互いに干渉する。センサー表面の抗体等に他の分子が結合すると、層の厚みがごくわずかに変化し、反射光のスペクトルが変化する(図2)。BLItzはこのスペクトルを解析し、簡便な相互作用解析を可能にしているのだ(図3)。計測に用いる光が通過するのはバイオセンサー内部および表面のタンパク質層のみであるため、サンプル溶液中の夾雑物量など外部環境による影響を受けにくい。

図2 BLIの原理 (a) センサーチップの内部から白色光を投射すると、屈折率が変化する界面で一部の光が反射する。それぞれの界面で反射した光同士が干渉を起こす。センサー表面に固定化した分子に他の分子が結合すると、反射の界面位置が変化する。それによって、反射光の干渉の仕方も変わる。(b)反射光のスペクトル上で、ピークのシフト(Δλ)が起こる。これを解析することで、センサー表面に形成された高分子の膜厚がわかる。

図2 BLIの原理
(a) センサーチップの内部から白色光を投射すると、屈折率が変化する界面で一部の光が反射する。それぞれの界面で反射した光同士が干渉を起こす。センサー表面に固定化した分子に他の分子が結合すると、反射の界面位置が変化する。それによって、反射光の干渉の仕方も変わる。(b)反射光のスペクトル上で、ピークのシフト(Δλ)が起こる。これを解析することで、センサー表面に形成された高分子の膜厚がわかる。

図3 専用ソフトウェアにより簡便な測定が可能 ウインドウ左側のアイコンから、結合対象タンパク質の存在の有無、検量線作成、 タンパク質定量、速度論解析など解析の種類を選んで使用する。

図3 専用ソフトウェアにより簡便な測定が可能
ウインドウ左側のアイコンから、結合対象タンパク質の存在の有無、検量線作成、
タンパク質定量、速度論解析など解析の種類を選んで使用する。

ELISAやWestern blottingに替わるアプリケーション

 バイオセンサーラインナップとして、ストレプトアビジン、Protein A/G/L、Ni-NTA、そしてヒトIgG Fc、マウスIgG Fc、GSTに対する抗体などが固相化されたものを取り揃えている。これにより、これまでELISAやWestern blottingにより行ってきたターゲットタンパク質の存在確認を、BLItzで行うことも可能だ。アッセイ時間も圧倒的に短縮できる。さらに反応速度を指標として、in vitro 反応系の条件最適化に利用することもできるだろう。

 さらに低分子との相互作用にも対応し、温度調整もできる高感度測定システムOctet K2 Systemもある(図4)。96ウェルプレートに反応に必要な溶液をあらかじめセットすると、自動的に結合から解離を測定して速度論解析ができる。2つのチャネルで2条件を同時に測定できるため、測定の時間と手間を大幅に低減できるはずだ。豊富な情報量を簡便、短時間に分析できる技術により、今後も新しい知見が生まれていくだろう。

注目:日本ポールは第33回リバネス研究費で「Pall ForteBIO賞」の公募を行います。 (2016年9月1日公募開始)

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図4 Octet K2 System

図4 Octet K2 System